研究会「難民・強制移動におけるフェミニズムとクィアのアプローチ」報告

研究会

難民研究フォーラムでは下記の研究会を開催しました。

開催日:2023年6月17日(土)、ウェビナー
報告者:工藤晴子(神戸大学)
専門:国際社会学、ジェンダー/セクシュアリティ、難民/強制移動研究
主な業績に『難民とセクシュアリティーアメリカにおける性的マイノリティの包摂と排除』明石書店(2022年)、「難民・避難民の移動と支援におけるジェンダーに基づく暴力」トラウマティック・ストレス 20巻1号(2022年)、「難民保護におけるホモセクシュアリティ概念の採用 : ゲイとレズビアン難民によるナラティヴ構築の事例から」Gender and Sexuality : journal of Center for Gender Studies vol.9(2014年)など。

(フェミニズムとクィア研究においては)特に、周縁化された人たちの日常や経験と研究がいかに関わり、中心の規範や、かれらを周縁化させる言説、制度、社会構造をいかに変化させ、周縁化された人々の連帯を促す運動に資することができるか、が問われる。」
ーー工藤晴子氏(報告書より抜粋)

ジェンダー/セクシュアリティの視角は、難民・強制移動の現象を様々なレベルと文脈で捉え理解しようとする試みにおいても、避けては通れないものになっています。国際的な難民・強制移動研究や実務においては、これまでの蓄積の中で、ジェンダー/セクシュアリティの重要性に対する認識は確立していると言えるでしょう。一方で、日本国内においては、十分に浸透してきたとは言い難い状況があります。

2014年に公表された難民認定制度に関する専門部会の提言においては、ジェンダーとセクシュアリティを理由とする迫害が「新しい形態の迫害」として位置づけられていました。その後、2018年に、同性愛を理由とする迫害についての初めての難民認定、2020年には強制結婚、女性器切除のケースの難民認定が行われるなど、難民として認定される事例が報告されるようにはなってきたものの、欧米諸国をはじめとする国々で同様の認定が出されるようになってから少なくとも20年近く遅れての出来事です。

研究においても、『難民研究ジャーナル』に過去に掲載した論文や報告などを含めて、難民女性や性的マイノリティの難民に目を向けた研究は存在するものの、取り上げられたテーマやアプローチ、分析視角などは限定的であり、今後更なる研究の広がり・深化が求められています。

この問題意識を念頭に、『難民研究ジャーナル』第12号の編集委員でもある工藤晴子氏に、これまでの先行研究を整理し、フェミニズム/クィアの方法論の特徴や、それを通じて見えてくる難民女性やセクシュアルマイノリティの難民の経験に関して、理論的な観点から報告していただきました。

講師写真

工藤氏は、ジェンダー/セクシュアリティを理由に移動を強いられた人々に目を向ける重要性を示しつつ、参加者に対して、それぞれが難民に向けるまなざしを振り返ることの重要性についても、研究と実務の両方に関わるご自身の経験も踏まえて、次のように話しました。

私たちが持っている難民に対するまなざしを、反省的かつ継続的に検討することが必要だと考えている。『LGBTQI+難民』への関心が高まっているが、それに伴って、その人たちのことをことさら『被害者である』『ホモフォビックな出身国の、野蛮な社会の犠牲者であると描こうとしていないか。かれらの出身国や社会を『普遍的な人権・難民保護の理念と対照的なもの』として描こうとしていないかに留意する必要がある。

報告書と発表資料は、以下をご覧ください。

◉報告書

◉発表資料 ▷ PDF

※本研究会の議論は、『難民研究ジャーナル』第12号(特集:難民とジェンダー/セクシュアリティ)に掲載された同名論文の議論をもとに行われています。そちらも併せてご覧ください。

◆難民研究フォーラムメンバーについて
本研究会は、基本的にメンバーを対象にして、年3~4回程度開催しております。
メンバーへのご関心のある方は、こちらよりご覧ください。

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