研究会「インド・アッサム州における市民権をめぐるエスニック・マイノリティの排除」報告

研究会

難民研究フォーラムでは下記の研究会を行いました。

開催日:2024年10月11日(金)オンライン
報告者:木村真希子(専門:南アジア研究、エスニシティ、国際社会学 / 津田塾大学教授)

関連する研究業績に「インド・アッサム州における市民権問題」(『立教法学』106号、2022年、59~81頁)、「インド・アッサム州における人の移動と人権保障 全国市民登録簿(NRC)更新問題を中心に」(『平和研究』53号、2020年、1~16頁)、『終わりなき暴力とエスニック紛争:インド北東部の国内避難民』(慶応義塾大学出版、2021年)、「インド・アッサム州ボドランド森林地におけるエスニック紛争と国内避難民」(『国際関係学研究』43号、2017年、47~58頁)など。

「すべての人はどこかの国民国家に所属していて、市民としての権利を享受して生きているという今の国民国家や市民権のシステムの前提を、一回見直してみる必要があるのではないか」
―木村真希子氏(報告書より抜粋)

2019年8月、インド北東部アッサム州で約190万人もの人々が「無国籍」になるという衝撃的な報道が世界で注目を集めました。

多くの先行研究において「市民権の危機」について論じられる場合には、国外から来る移民・難民に対して、「誰に市民権を与えるべきか」が議論されます。そこでは、国内の国籍を持つ者が予め規定されており、その権利はひとまず保障されていることが前提になっています。しかし、世界的には市民権を書類で証明することが困難な国・地域は少なくなく、それらの国や地域では「非正規移民」の取り締まりの過程で、政府や多数派の偏見により、先住民やその土地で生まれた市民までもが市民権を剥奪されてしまうことがあります。

こうした事例の一つとして、本研究会では、インド・アッサム州における市民権証明の困難な状況と、その背景にあるエスニック・マイノリティの排除の実態について、インド北東部の国境地帯における植民地統治下時代から続く民族紛争や民族運動について研究されている木村真希子氏にご報告いただきました。

アッサム州でも、「全国市民登録簿(NRC)」に登録ができなかった人々は、突然これまで生活してきた国で市民権を奪われる懸念に直面しています。すでに2018年9月時点で1,037人もの人が「不法滞在の外国人」と宣言され、拘留されています。NRC名簿に基づいて市民権を確定させるプロセスは停止されているものの、その中でもNRCに登録できなかったことによって、実質的な市民権の停止が起きています。

市民権の議論で用いられる「その土地の人/外から来た人」という区別は、歴史の中のある時期までの移動を基準に明確に判断できるのでしょうか。また、市民としての権利を有する人を、公的な書類をもとにふるいにかけようとした際に起こり得る様々な課題に対応できるのでしょうか。アッサム州の事例は、国民国家の枠組みとそこでの市民権の享受という、私たちが当たり前のようにとらえている近代以降のシステムに対して、重要な問題提起をもたらしてくれます。

報告書は以下をご覧ください。

◆難民研究フォーラムメンバーについて
本研究会は、基本的にメンバーを対象にして、年3~4回程度開催しております。
メンバーへのご関心のある方は、こちらよりご覧ください。

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