第8回若手難民研究者奨励賞 講評

2020年7月6日

1.応募状況

本年は新規申請者8人、再申請者3人、合計11人の申請がありました。応募者は首都圏と京阪神を中心として、バングラデシュ(英国大学院在籍)からも1件の応募がありました。新規申請者8人のうち大学院生6人、研究員1人、常勤研究者が1人で、再申請者3人のうち大学院生2人、研究員1人でした。専門分野では、国際保健、地域研究、開発社会学、メディア研究、国際教育開発学、人類学、開発学、難民法、ジェンダー、国際関係論の分野からの申請がありました。研究対象とする地域は、日本、東南アジア、南アジア、中東、アフリカで、例年と同様に多彩な顔ぶれとなりました。

2.選考過程

選考にあたっては、研究・専門分野が異なる研究者4人と実務者1人から構成される5人の選考委員を選任しました。審査は、(1)選考委員による個別審査と、(2)選考委員会での協議の2段階で進められました。通常の申請書類に加え、新型コロナウィルスの感染拡大をうけ申請者に対して、研究・調査の実現可能性、提出されている調査・研究計画の変更、または調査目的を達成するための代替措置について追加文書(任意様式)の提出を求めました。また奨励期間は ソーシャル・ディスタンスをとることが求められていることを前提として記述するように依頼しました。依頼日は4月22日で締め切りは5月7日とし、全員が期日までに提出し、この文書も参考資料として審査しました。

選考にあたっては、各審査委員が審査基準にもとづき順位と総評・コメントをつけたのち、選考委員会を開催し授賞者の選定を行いました。特に以下の点に留意しながら審査を行いました。

まず申請研究計画書と提出された論文から、難民研究に寄与する成果論文や報告を提出する見込みが高いことです。研究の意義、目的、研究手法、研究計画が明確であり、それらの間に整合性や研究実績があるか、それによって一定の期間に学術的な成果論文を完成させられるかを確認しました。研究の実現可能性、研究計画の変更についての追加文書については、ほとんどの申請者が電子メールやSNS、電話やオンラインツールをもちいて遠隔調査をすると回答しました。しかし、非対面の調査を行うことで対面を前提とした研究計画がいかに達成できるのか、非対面の調査の限界点も踏まえて回答したものはあまりありませんでした。

そのため、追加書類の回答を加味したうえで、1)研究の実現可能性、2)申請者の研究の理論的枠組みが明示され対面調査ができない事態に対処し得ること、3)それらを探究できる能力が提出された論文から確認できることのいずれか、もしくは複数のポイントを評価し内定者を選定しました。

3.全体講評

全体的な傾向として申請者の専門分野はさまざまでしたが、新規申請者のすべてがフィールドワークにもとづく調査・研究計画を立案していました。このため選定にあたって、追加で提出された書類の記述内容と実現可能性を重視することになりました。海外渡航や対面調査が困難ななかでも1年間の奨励期間で成果論文の提出が見込まれることが重視されました。

この点で、大学院博士課程前期の1年目、後期課程の1年目の申請者などで、学位論文以外の業績がない方には不利であったかもしれません。ただし、研究の理論的な枠組みを提示したうえで先行研究の視点を発展させようとすることが分かれば、業績に関係なく採択される可能性は今回にかぎらず十分にあると思います。審査員の専門分野はそれぞれ異なりますので、専門用語や概念については「専門家」以外にも分かるように記述することが大切です。また今回は、第5回より導入された再申請枠で初めての受賞者がいました。授賞理由は以下のとおりです。

4.受賞者4人の授賞理由(50音順)

大茂矢 由佳(おおもや ゆか OMOYA, Yuka):難民・移民研究、メディア研究
 筑波大学大学院人文社会科学研究群国際日本研究専攻博士後期課程

「日本人の対難民意識とメディア報道接触に関する実証研究」

授賞理由:メディア報道と難民に対する印象の因果関係についての実証研究は少なく、実務家にとっても有益な研究になり得る点が評価された。for refugeesという観点からも研究成果が期待される。これまでの研究から導きだされた課題が明確で、具体性がある点も評価された。

● 八木 達祐(やぎ とおすけ YAGI, Tosuke):観光学、人類学
 立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程

「都市難民の暴力経験をめぐる観光人類学的研究:ケニア、キベラのルオ人を事例として」

授賞理由:対面調査が不可能になっても理論的枠組みにもとづく研究成果を公表することが期待できる。観光学を専門とするが、研究対象者を都市難民として捉えなおすことに着目しており難民研究の外延をひろげる可能性がある点が評価された。

● 山本 清治(やまもと せいじ YAMAMOTO, Seiji):国際保健、障害者支援
 神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域保健学研究員

「都市在住シリア難民障害者の母国帰還の動向と国際協力支援の課題」

授賞理由:研究対象者と協力者の選定が具体的で、一次資料を収集する調査にもとづく研究成果を公表することが期待できる。本研究によって得られたデータは、特に脆弱とされる障害者の支援や社会統合のあり方を構想するさいにも資することが評価された。

再申請者枠
● 村橋勲(むらはし いさお MURAHASHI, Isao):文化人類学・アフリカ地域研究
 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター特任研究員

「難民による「住まい」の創造—南スーダン、ロピット難民のモノと身体の文化」

授賞理由:これまでの研究成果を踏まえ問題意識が明確で、理論的な枠組みも意識した研究計画であった。特にモノ研究、マテリアリティ、身体性といった研究分野や諸概念と接合した研究成果が期待できる。また遠隔調査の試みについては、新型コロナウィルスの感染状況も踏まえた限界点も指摘したうえで計画が立てられていることも評価された。

以上

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