文責 審査委員長 人見泰弘
1. 申請者
本年度の申請者数は13名となり、うち2名が過去受賞者による申請であった。過去受賞者の申請はいずれも共同研究である。前年に引き続き関東及び関西に限らず、東海・九州からの応募があったほか、海外応募も複数申請があった。また大学以外の研究機関、海外で活動する実務家からの応募もあった。
申請者の応募時のポジションは、大学院生8名、研究員、非常勤講師などが5名であり、本奨励賞が対象とする若手研究者からの応募となった。応募者には博士号取得者・博士課程在学者とともに、実務経験を有する者が含まれている。応募書類に記載された申請者の専門領域は、臨床心理学・教育・発達心理学、臨床心理学、国際人権法・難民法、国際関係論・国際安全保障、地域研究(中東・北アフリカ)、国際難民法、国際関係論、難民法・国際人権法、人類学、地域研究・移民研究、地域研究(ミャンマー)、国際関係論・アフリカ難民研究、開発経済学・比較経済発展論・政治経済学・経済史政治学、人類学となり、これまで申請がなかった学問分野を含む幅広い領域からの応募があった。
2.選考方法
審査委員会は、研究分野が異なる研究者4名と実務家1名の計5名で構成した。
選考は規定の通り、個別審査と全体審査の二段階審査で行った。まず各委員が個別審査を実施し、個別審査票を提出した。個別審査では、審査基準に基づき各項目で得点及び順位をつけるとともに研究計画の評価できる点及び課題点を付し、これらを審査委員長が取りまとめた。
また審査委員長と利害関係が認められる応募者1名があった。選考規定に基づき、当該応募者の審査では、審議を退出し、当該応募者の審査に加わらず、残りの委員によって審査を実施した。
選考は、過去に受賞経験がない応募者から先に審議を行い、続いて過去受賞者を審議することとした。そのうえで、審議は若手性の点数が高い応募者から順に行った。若手性とは、若手研究者を積極的に奨励する本奨励賞の趣旨をふまえ、研究を継続するための基盤(ポジションや研究資金など)が充分に確立できていない応募者、研究業績が少ない応募者が高いポイントを得るように設定された指標であり、応募書類に基づき算出した点数を用いていた。
審査委員会は5月13日(月)にZoomを用いたオンライン形式で実施した。厳正な審査の結果、下記4名を内定者として選出した。
3. 全体の講評
いずれの研究課題も興味深いものであり、審査委員会でもさまざまな観点から評価が行われた。審査過程を振り返ったときに、特に言及されることが多かった課題を以下にまとめておきたい。
一つ目に、研究課題の明確化である。自身の研究が従来の先行研究に比べてどのように展開するものと捉えているのか。先行する課題にいかなる問題を読み解き、難民研究及び周辺領域にいかなる学術的貢献を為そうと試みるものであるか。研究課題として質的に差異化できる箇所を具体的に記載することは、取り組むべき課題を明晰にするとともに、研究課題の学術的及び社会的意義を示すうえでも欠かせないものと言える。
二つ目に、研究の実現可能性を示すことである。奨励期間及び論文提出期限を踏まえれば、当該の研究に費やせる時間は有限である。研究課題は研究期間内に実現できるものであるか。そのための事前準備が充分に整われているか。現地への渡航や調査実施に際する変更可能性が見込まれるのであれば、代替案も含めて検討は充分になされているか。研究遂行に対する準備とリスクを示しつつ、研究が着実に実施できる見通しの提示が求められる。
研究計画の作成は、改めて自身の研究課題の強み(と弱み)を可視化することにもつながる。継続的に改善点を探り、自身の研究のさらなる発展を目指してほしい。
4. 受賞者と授賞理由(申請順)
南波 慧(なんば さとる)
高崎経済大学非常勤講師(国際関係論)
「『敵対的環境』政策下のイギリスにおける保護者に同伴されない子どもの保護」
授賞理由:英国の「敵対的環境」政策が広範囲に展開されるなか、「保護者に同伴されない子ども」に与える影響を解明しようとする意義ある研究課題と評価された。研究目的や学問的意義は丁寧に練られており、着実な研究成果が期待できることも高い評価を獲得した。
刈茅 豊(かるかや ゆたか)
青山学院大学法学研究科公法専攻博士後期課程(難民法、人権法)
「供述の変遷と信憑性評価」
授賞理由:難民認定実務における供述の変遷が信憑性評価に与える影響を明るみにする、着眼点に優れた研究と評価された。研究成果は難民の利益にも適うものであり、社会的意義を持つことも本研究に対する高い期待を集めた。
大津真実(おおつ まみ)
大阪大学学際大学院機構(ドイツ地域研究、移民・難民研究)
「ドイツにおける難民女性の社会統合に関する研究――政策動向と現場の取り組みから」
授賞理由: ドイツにおける難民女性をめぐる政策的・実践的な動向及び課題を明らかにするもので、申請者の研究成果を発展させ堅実な研究成果が見込まれる研究と評価された。ジェンダーの視点から難民女性の特有性を捉え返そうとする重要な学問的意義を備える研究として期待される。
田中 翔(たなか しょう)
大阪大学COデザインセンター(国際関係論、アフリカ難民研究)
「ECOWAS難民政策の移民政策化――リベリア・シエラレオネ元難民の法的地位と生計活動の視点から」
授賞理由:アフリカにおける難民の社会統合に関し、受入国だけではなく地域協力機構も関与する独自な事例にフォーカスした興味深い研究と評価された。すでに現地調査を行う上での準備を整えつつ、難民からみたシティズンシップという重要な研究領域への貢献が期待される。
以上
*第12回若手難民研究者奨励賞の募集要項はこちらからご覧いただけます。