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難民認定審査を実施する機関について、比較を行いました(オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、ドイツ、フランス、アイルランド、イタリア、日本、オランダ、ポルトガル、韓国、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカの16か国)。
本表は、各国の難民認定機関に関して、「審査機関の位置づけ(所管省庁・独立性等)」と「規模(職員数・予算等)」に焦点を絞り、まとめたものです。
調査の結果、「一次審査」の審査機関について、政府から独立した立場で判断を行う旨の記載が確認できた場合には★で示しています。また、一次審査の結果に対する「不服申し立て」の審査機関が、一次審査を担当した組織とは異なる組織(同組織内の別部門・部署は含まない)である場合は■で示しています。
審査機関の仕組みは国ごとに異なっており、難民認定審査のあり方をより詳細に比較するためには、「法的扶助の有無」や「通訳者の質」など、審査結果に影響を及ぼし得るその他の制度や、本表には反映されていない「審査担当者の適格性」や「難民認定基準」などを含めて、総合的に検討する必要があります。各国制度の詳細は「出典」欄のリンクなどからご確認ください。
各国における難民認定機関
項目 | 一次審査 | 不服申立て | |||
審査機関(★=所管省庁からの独立性に関する記述) | 職員数 | 所管省庁 | 申請者数 | 審査機関(第一段階) (■=一次審査と異なる組織) |
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オーストラリア | 内務省 (DHA, Department of Home Affairs) | N/A | ー | 14,153人 : 2021年 | ■行政不服審判所 (AAT, Administrative Appeals Tribunal)移民・難民部(Migration and Refugee Division) |
AAT:オーストラリアにおける様々な行政処分に対する審査請求を取り扱う審判所。難民としての保護や補完的保護が必要と認められた者に許可される「保護ビザ(Protection Visa)」の申請を却下された場合の再審査も担当する。 | |||||
オーストリア | 連邦外国人難民庁(BFA, Federal Agency for Immigration and Asylum) | 1,039人(2021年12月)※うち、ケースワーカーの数:440人 | 内務省 | 112,272人 : 2022年 | ■ 連邦行政裁判所(Federal Administrative Court) |
BFA:国際保護の申請者に対する審査を担当し、一次審査の決定を行う。また、人道上の理由に基づく例外的在留許可や、特定の外国人に対する警察手続における審査も行う。年間予算は約1億ユーロ(2018年、うち61.7%が人件費)。 | |||||
ベルギー | 難民・無国籍者弁務官 (CGRS、Commissioner General for Refugees and Stateless Persons) | 487人分(2021年) ※フルタイム換算 | 内務省 | 36,871人 : 2022年 | ■ 外国人法訴訟協議会 (Council of Alien Law Litigation) |
・★ CGRS:国際保護の申請者に対する審査を担当し、一次審査の決定を行う。組織の独立性が法律に明記されており、故に、庇護や移住を担当する大臣(又は長官)から指示を受けることなく、庇護申請者に対する個別の決定を行う。ただし、過去に付与された国際保護の地位の再審査を求める場合など、庇護法の規定に基づき担当長官の関与が認められる場合がある。また、長官は、特定の事案を優先的に審査をするように、CGRSに求めることができる。年間予算は440万ユーロ(2018年)。 ・協議会:行政裁判所。移民分野における行政判断に対する不服審を担当。 |
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カナダ | 移民難民委員会・難民保護部 (RPD, Refugee Protection Division) | 委員数:279人(2020/21年度) | 移民難民市民権省 | 60,158人 : 2022年 | 移民難民委員会・ 難民異議申立部(RAD, Refugee Appeal Division) |
★ RPD・RAD:共にカナダ最大の独立行政裁判所であるカナダ移民難民委員会(IRB、Immigration and Refugee Board)の下部組織で、カナダ移民難民市民権省(IRCC、Immigration, Refugees and Citizenship Canada)から独立して判断を行う。IRB全体の職員数は、フルタイム換算で2,028人分(2021/22年度)。年間予算は約2億6,000万カナダドル(2021/22年度)。 | |||||
ドイツ | 連邦移民・難民局(BAMF、Federal Office for Migration and Refugees) | 役職 8,138人分(2022年9月) ※うち、庇護関係の部門:約3,094人分(フルタイム換算) | 連邦内務省 | 244,132人 : 2022年 | ■ 行政裁判所 (Administrative Court) |
BAMF:国際保護の申請者に対する審査を担当し、一次審査の決定を行う。年間予算は18億ユーロ(2018年)。 | |||||
フランス | フランス難民及び無国籍者保護局 (OFPRA、Office for the Protection of Refugees and Stateless Persons) | 1,003人(2022年12月) ※うち、庇護申請の審査を担当する職員:約450人 | 内務省 | 156,455人 : 2022年 | ■ 国家庇護権裁判所 (CNDA, National Court of Asylum) |
・★ OFPRA:国際保護の申請者に対する審査に特化した組織で、一次審査の決定を行う。組織の独立性が法律に明記されており、内務省からの指示を受けることはない。年間予算は約7,100万ユーロ(2018年、うち69%が人件費)。 ・CNDA:OFPRA長官による庇護申請に関する行政判断に対する不服申立てに特化した行政裁判所。 |
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アイルランド | 国際保護局(IPO、International Protection Office) | 166.91人分(2022年4月) | 法務省 | 2,629人 : 2021年 | ■ 国際保護不服審判所 (IPAR, International Protection Appeals Tribunal) |
・IPO:入国管理局(Naturalisation and Immigration Service)の下部組織として、庇護申請の登録や決定業務を行う。申請者の難民・補完的保護・在留許可の該当性に関して、一連の手続の中で判断を行い、法務大臣(難民認定や補完的保護の宣言を行う立場にある)に対する勧告を作成。難民認定や補完的保護を与えるべきとの勧告を行う場合は、法務大臣への提出と同時に、申請者にその旨が通知される。 ・IPAR:準司法組織。独立した立場で判断を行うことが、法律に明記されている。 |
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イタリア | 国際保護認定地域委員会(Territorial Commissions for the Recognition of International Protection) | イタリア全土で20の委員会及び21の分科会(2021年12月) | 内務省 | 56,388人 : 2021年 | ■ 民事裁判所 (Civil Court、庇護審査に特化した部門に係属) |
委員会:庇護申請に特化した行政機関で、委員会ごとに6人以上のメンバーで構成される。うち1名はUNHCRによる指名。 | |||||
日本 | 法務省・出入国在留管理庁 | 405人(2022年4月)※難民調査官に指定されている者の数 | ー | 3,772人 : 2022年 | 法務省・出入国在留管理庁 |
難民認定の権限が法務大臣から入管庁長官や地方局長に委任される場合もある。審査請求において、法務大臣は難民審査参与員の意見を聴かなければならない。年間予算約5億2,000万円(2023年度概算要求における難民認定事務経費の合計。入管庁全体の予算は約520億円)。 | |||||
オランダ | 入国管理局(IND、Immigration and Naturalisation Service) | 4,458人(2022年) | 法務省 | 35,535人 : 2022年 | ■ 地方裁判所 (Regional Court) |
IND:国際保護の申請者に対する審査を担当し、一次審査の決定を行う。 | |||||
ポルトガル | 庇護難民局(GAR、Asylum and Refugees Department) | 24人(2022年)※うち、国際保護申請(ダブリン手続以外)の審査を担当するケースワーカー:11人 | 内務省 | 1,992人 : 2022年 | ■ 行政会計裁判所 (Administrative and Fiscal Courts) |
GAR:庇護申請に特化した決定機関。移民・国境局(SEF、Immigration and Borders Service)の下部組織として、国際保護に対する申請の審査や、一次審査の決定の草稿作成を担当する。国際保護の付与、却下(迅速手続や許容性審査の場合を除く)、終止、取下に関する最終決定は内務省が所管。ただし、これらの決定はGARによる評価や勧告を採用する形で行われるため、実質的にはGARが庇護申請に対する審査の主な責任を担っているといえる。なお、SEFの年間予算は約9,300万ユーロ(2018年)。 | |||||
韓国 | 法務部 | 93人(2020年6月)※難民審査官・通訳の数 | ー | 2,341人 : 2021年 | 法務部 |
不服申立てにおける法務部長官の諮問機関として、難民委員会が設置されている。長官が任命または委嘱した15人以下の委員によって構成され、難民調査官が調査その他の事務を担当する。 | |||||
スペイン | 庇護・難民事務所(OAR、Office of Asylum and Refuge)及び 関係省庁合同難民審査委員会(CIAR、Office of Asylum and Refuge Inter-Ministerial Commission on Asylum) | N/A | 内務省 | 118,842人 : 2022年 | ■ 全国管区裁判所 (National Court) |
・OAR:国際保護の申請者に対する全ての審査を担当し、その結果を決定草稿としてCIARに提出する。年間予算は約640万ユーロ(2018年)。 ・CIAR:国際保護の付与または却下に関する決定を行う。委員会による決定には内務大臣による署名(実際は内務次官の担当者が署名をすることが一般的)が必要。 |
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スウェーデン | 移民庁(Migration Agency) | 平均 5,773人(2022年) ※庇護申請手続き担当のケースワーカーの数:913人(2019年) | 法務省 | 16,734人 : 2021年 | ■ 移民裁判所 (Migration Court) |
・★ 移民庁:国際保護の申請者に対する審査を担当し、一次審査の決定を行う。スウェーデンの他の行政機関と同様に、政府及び議会からは完全に独立して業務を行う。また、国際保護への申請を含め、個別の事案に関する決定に政府が影響を与えることは禁止されている。ただし、国家の安全への重大な脅威が懸念される状況では、特定の法律の適用が認められる場合がある。年間予算は約31億ユーロ(2018年)。 ・裁判所:不服申立てを受けて移民庁が再審査を行い、再度不認定とした案件が裁判所に回付される。裁判所は独立した立場で判断を行い、不服申立てに対する公式の決定を行う。 |
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イギリス | 英国ビザ・移民局(UKVI, UK Home Office Visas and Immigration), Asylum Intake and Casework Directorate | 600人(2021年3月) | 内務省 | 56,495人 : 2021年 | ■ 第一層審判所 移民・庇護部(FTT(IAC)、First Tier Tribunal(Immigration and Asylum Chamber)) |
UKVI:下部組織である Asylum Intake and Casework Directorate が、庇護に関する決定を所管する。年間予算は約190万ポンド(2020/21年度)。 | |||||
アメリカ | アメリカ合衆国市民権・移民局 (USCIS、U.S. Citizenship and Immigration Services) | N/A | 国土安全保障省 | 117,535人 : 2021年 | ■ 移民不服申立局(AAO、Administrative Appeals Office)または 移民審査局 (EOIR、Executive Office for Immigration Review) |
・USCIS:正規滞在者による庇護申請に対する審査(Affirmative Process)を担当。年間予算は約60億ドル(2023年度) ・AAO:正規滞在者に関する不服審を担当。 ・EOIR:非正規滞在による庇護申請に対する審査(Defensive Process)や、USCISによる不認定の決定後、非正規滞在となった者の不服審を担当。司法省管轄で、Immigration Judge が審査を行う。 |
【出典】(最終閲覧日はすべて2023年5月14日)
- オーストラリア:Administrative UNHCR “Refugee Data Finder” https://www.google.com/url?q=https://www.unhcr.org/refugee-statistics/download/?url%3DC6Eq9q&sa=D&source=docs&ust=1683626117026171&usg=AOvVaw0cbxEzrCd3L14HnwwbD0lB;「出身国情報の検索について」https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2019/11/COI-Research_2019-Sep-version.pdf
- オーストリア:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Autria 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/05/AIDA-AT_2022-Update.pdf
- ベルギー:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Belgium 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/04/AIDA-BE_2022update_final.pdf
- カナダ:Immigration and Refugee Board of Canada “2023–24 Departmental Plan” https://irb.gc.ca/en/reports-publications/planning-performance/Pages/departmental-plan-report-2324.aspx; “Claims by Country of Alleged Persecution – 2022” https://irb.gc.ca/en/statistics/protection/Pages/RPDStat2022.aspx; “Funding and human resources” https://irb.gc.ca/en/transparency/pac-binder-nov-2020/Pages/pac14.aspx
- ドイツ:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Germany 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/04/AIDA-DE_2022update.pdf
- フランス:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: France 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/05/AIDA-FR_2022-Update.pdf
- アイルランド:AIDA “Country Report: Ireland 2021 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2022/04/AIDA-IE_2021update.pdf
- イタリア:AIDA “Country Report: Italy 2021 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2022/05/AIDA-IT_2021update.pdf
- 日本:出入国在留管理庁「難民認定事務取扱要領」(2020年10月15日一部改正);「令和4年における難民認定者数等について」https://www.moj.go.jp/isa/content/001393012.pdf、内閣参質二〇八第五七号「我が国における難民認定の状況に関する質問主意書」https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/208/meisai/m208057.htm、法務省 概算要求書 一般会計(歳出)https://www.moj.go.jp/content/001380394.pdf
- オランダ:AIDA “Country Report: Netherlands 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/04/AIDA-NL_2022update.pdf
- ポルトガル:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Portugal 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/05/AIDA-PT_2022-Update.pdf
- 韓国:呉泰成「2021年難民動向分析ー韓国ー」『難民研究ジャーナル第12号』2021 年難民動向分析―韓国―、藤原夏人「韓国における難民法の制定」『外国の立法253』https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3531905_po_02530006.pdf?contentNo=1、文熙喆「2019年難民動向分析ー韓国ー」『難民研究ジャーナル第10号』https://refugeestudies.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/Refugee-Trend-Analysis-in-Republic-of-Korea-2019.pdf
- スペイン:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Spain 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/04/AIDA-ES_2022update_final.pdf
- スウェーデン:AIDA “Asylum Authorities” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2020/11/aida_asylum_authorities_0.pdf; “Country Report: Sweden 2022 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2023/04/AIDA-SE_2022update.pdf
- イギリス:AIDA “Country Report: United Kingdom 2021 Update” https://asylumineurope.org/wp-content/uploads/2022/03/AIDA-UK_2021update.pdf, Home Office “Annual Report and Accounts 2020-21” https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1000127/HO_Annual_Report_and_Accounts_2020-21_FINAL_AS_CERTIFIED__accessible_.pdf
- アメリカ:American Immigration Council “Asylum in the United States” https://www.americanimmigrationcouncil.org/research/asylum-united-states, UNHCR “Refugee Data Finder” https://www.google.com/url?q=https://www.unhcr.org/refugee-statistics/download/?url%3DJ7jDJ5&sa=D&source=docs&ust=1683628798820617&usg=AOvVaw18NhbqnPRGWQ-3Z9slaqFz