掲載日:2020年5月18日(月)
PDFはこちらから
イギリスにおける難民認定申請者(以下、難民申請者)は1990年代末~2000年代初頭にかけて急増し、ピーク時の2002年には84,132人にのぼりました1。同年に改正された国籍・移民・難民法(Nationality, Immigration and asylum act 2002)では、申請数の90%以上の審査を平均6か月以内(182日以内)で行うことを目標2に、難民該当性審査の迅速化のための制度が導入されました3。
迅速処理制度は審査期間を短縮することで受け入れ国の負担を減らすことが期待できますが、十分な審査期間が設けられず、誤った判断を下した場合、本来は庇護すべき難民申請者を、迫害や深刻な人権侵害の危険性の高い出身国に送還にしてしまうリスクと隣り合わせです。よって「難民を彼らが迫害の危険に直面する国へ送還してはならない」と定めたノン・ルフールマン原則4の適切な運用のためにも、慎重かつ適切な判断が求められます。
図1:イギリスと日本の難民申請者数の推移
イギリスには送還停止効が適用されない不服申立手続き(Non-Suspensive Appeal Procedure:以下、NSA)と略式拘禁制度(Detained Fast Track Procedure:以下、DFT)という2つの迅速処理制度が存在します7。NSAは明らかに庇護を必要としないと判断された難民申請者に対して適用される制度で、難民該当性がないにもかかわらず、難民申請を行うことで送還を免れることを目的とした難民申請者を峻別するための制度です。出入国管理行政を担う内務省(Home Office)による難民該当性審査で不認定となり、NSAが適用されるとイギリス国内で不服申し立てを行うことが認められず、国外退去となります。一方、DFTは難民該当性判断の審査が容易に行えると判断された場合に適応される制度で、難民申請者を収容所に収容し、通常のプロセスよりも迅速に審査を行う制度です。
2002年の法改正を受けて始まったこの2つの制度は、導入時から様々な問題が指摘され、公的機関による調査・勧告、NGOや個人が起こした行政訴訟などの法廷闘争が行われてきました。その結果、現在ではNSAはその適用可否を判断するガイドラインを明確化するなど慎重な運用が行われるようになり、DFTは運用自体が停止されています。
今回、難民研究フォーラムは迅速処理制度に着目し、イギリスの難民認定制度の変遷から見える迅速処理の問題点と課題を分析しました。
※送還については、以下もご覧ください。
<目次>
1.イギリスの難民該当性審査の制度とNSA/DFTの位置づけ
2.NSAとDFTの仕組みと課題
① NSAとは?
<概要>
<安全な第三国の出身者>
<申請内容の信憑性評価>
<NSAに関する主な報告・勧告・判例>
<NSAの課題>
② DFTとは?
<概要>
<DFTに関する行政裁判>
<DFTの課題>
3.イギリスの難民認定制度の変遷から見える課題
1.イギリスの難民該当性審査の制度とNSA/DFTの位置づけ
通常、イギリスで難民申請者は審査結果が確定するまで住居や生活費などの支援を受けることができ、審査結果が確定するまでの期間、イギリス国内に在留を許可される8。条約に基づく難民であるかを判断する難民該当性審査9はイギリスの出入国管理行政を担う内務省(Home Office)の担当官によって行われる。
この審査において難民申請が不認定された場合、申請者は司法機関である第一層審判所移民・庇護部(Immigration and Asylum Chamber of the First Tier Tribunal :以下、FTT)に不服申し立て(Appeal)を行うことができる。この不服申し立てで庇護されるケースも多く、その割合が最も高かった2015年には、不服申し立てを行った14,190人の42%にあたる5,851人が、 FTTにより庇護を認められた10。不服申し立てでも庇護申請が否認された場合、控訴院(Upper Tribnal)に上訴することが可能であるが、これには一定の制限が設けられており、控訴院またはFTTから申し立てが受理された場合に限られる11。難民申請が不認定となった場合は国外退去する必要がある12が、FTTや控訴院に不服申し立て/控訴を行うと、退去命令(Removal order)が自動的に停止され、審査が確定するまでの期間は在留許可を更新し、イギリスに留まることが可能になる。
イギリスでは行政判断に不服がある場合、司法判断を受ける権利が保障されており、この制度を使って難民の地位や人道的保護の地位が認定される申請者が毎年一定数いる。また、不認定となった場合でも、それまで検討されていない新たな証拠が提出できる場合や出身国の状況が著しく変化した場合などは再度難民申請を行うことが可能である13。
NSAとDFTは図2に示した通常の手続きとは異なる例外的措置である。NSAとDFTは通常の難民認定手続きの一部を省略したり、迅速化したりすることによって、適用対象となった難民申請者の審査を早期に終了させ、不認定の場合は速やかに送還するための制度である。本報告書では制度を概観し、その課題を明らかにする。
2.NSAとDFTの仕組みと課題
前述のように、イギリスの難民申請者数は1990年代末~2000年代初頭にかけて急増した。イギリス政府は難民受け入れ負担の軽減と、送還を免れることを目的とした難民申請の削減のために制度の厳格化を行った。その代表的な制度がNSAとDFTである。
①NSAとは?
<概要>
NSAとは「明らかに根拠のない」主張に基づく難民申請者に対して、一次審査において不認定となった場合、イギリス国内での不服申し立てを認めない制度である。一次審査で不認定となった難民申請者には退去命令が下されるが、不服申し立てを行った場合はその命令が停止される。しかし、NSAの対象となった場合は、退去命令が停止されない14。この場合、一次審査の結果に不服がある場合、まずはイギリスから退去しなければならず、出国した日から28日以内に国外から不服申し立てを行う必要がある。
2002年に改正された法律15によって定められた同制度の目的は、(1)明確に根拠のない主張に基づく申請によって、送還が遅滞することを防ぐこと、(2)不要な難民受け入れのコストを削減すること、である16。2003年に施行されたNSAの対象のほとんどは「安全である」としてイギリスが指定した国の出身者である。また、他のEU加盟国ですでに難民申請をしていることが明らかになった場合や申請内容が信じることができないほどあまりにも信憑性がない(so incredible that it is incapable of belief)場合もNSAの適用対象となる可能性がある。2019年には不服申し立てを行った難民申請者の7%にあたる1,031人が同制度の対象となっている。
しかし、出身国の状況や申請内容に加えて、個人の脆弱性なども考慮されるため、NSAの対象になるかどうかは個別に判断される17。NSA適用可否の判断は特別な研修を受けた内務省のケースワーカーが担当し、最終的な適用決定には認定された決定官(Accredited determining officer)の承認が必要である18。また、NSAの適用の決定に対して控訴院に提訴する権利があり、実際に控訴院でNSAの適用が取り消されたケースもある19。
<安全な第三国の出身者>
20 Section 94(4) of the Nationality, Immigration and Asylum (NIA) Act 2002に記載された「安全」とされた国の出身者は、「特別な事情がある」と判断された場合を除いてNSAが適用される。ただし、リストに記載されている出身国であれば自動的に適用されるわけではなく、個別の審査が実施される。例えば、2019年には2,144人の安全な第三国出身の難民申請者が一次審査で不認定となったが、NSAが適用されたのはそのうち874人に留まる(約40%)21。
<申請内容の信憑性評価>
NSAは「明らかに根拠のない」難民申請に適用されるが、申請者の主張が明白な証拠と明らかに矛盾しているなど、「誰が見ても信頼性に欠ける場合」を除き、NSAの適応判断に信憑性は考慮されない。裁判においても、「申請が認められる可能性のある正当な事実や法律が1つでも存在する場合、その申請は『明らかに根拠のない』とは言えない」との判断が示されている(ZL and VL v SSHD [2003] EWCA Civ 25)。つまり、審査者の主観に基づく信憑性の判断だけでNSAを適用することは認められておらず、信憑性を理由にNSAを適用することには非常に慎重な運用が求められている。
<NSAに関する主な報告・勧告・判例>
・2014年:An Inspection of the Non-Suspensive Appeals process for ‘clearly unfounded’ asylum and human rights claims22
NSAについて2013~2014年に調査を行った国境および移民の独立主任検査官23(以下、独立主任検査官:Independent Chief Inspector of Border and Immigration)によれば、この制度は「多くの人が重要なセーフガードだと考えていた(イギリス)国内からの不服申し立ての権利を取り除くものであるため、非常に物議をかもした。多くの懸念は内務省が申請内容は明らかに根拠がないと誤った判断をした場合、申請者は内務省の決定に不服申し立てを行う前に危険に直面した国に戻されること24」であった。独立主任検査官もこの懸念を共有している。そのため、NSAの適用対象にならない「明らかに根拠がないわけではない」ケースに十分考慮した上で、安全な第三国出身者に対しては積極的な運用を促す一方で、制度の不適切な運用が難民申請者を誤って送還する危険性を指摘し、それ以外のすべての難民申請者の認定に関しては慎重かつ検証可能な仕組みでの運用を徹底するように提言を行っている。提言では、「NSAの適用判断にあたって客観的な基準を設けること」、また「その基準を定期的に再評価すること」、「判断の質を向上させるためのデータの収集および分析するための緊急措置を講ずること」など適切なNSAの運用のための提言に加え、「NSA監視チームの役割と権限を明確化する」などといったHome Officeの運用を検証・評価する機能の強化も求められた。
・2016年:控訴院判決(UK – R (FR and KL (Albania)) v Secretary of State for the Home Department, 23 June 2016.)
NSAの適用判断と難民審査の認定・不認定の判断は完全に区別して運用されなければならないとされた。これによりNSAのガイドラインが改訂され、NSAの適用可否の判断は、難民申請自体の認定・不認定結果とは独立して行われることが強調された。
・2018年:控訴審判決( AJ (s. 94B Kiarie and Byndloss questions))
NSAが適用され、出身国(ナイジェリア)から控訴を行った申請者に対し、イギリスに帰国させ、直接聞き取りを行う必要があると判断を下し、それを行わずに決定を下した一審判決を破棄した。この判決によって、NSAの適用により、控訴審に本人が出席できないことで、裁判を適切に実施することが困難な事例の存在が明らかになった。
<NSAの課題>
2003年に運用が始まった同制度は、2014年に独立主任検査官から勧告がなされた後も、「明確な根拠のない」という定義の理解が深まっておらず、2017年の時点では「NSAの適用判断時の信憑性の判断の基準」と「難民認定審査における信憑性判断の基準」が区別されていなかったことがわかる。2019年に改訂されたガイドラインにおいては、この点が強調されており、ケースワーカーはさらに慎重な判断を求められている。イギリス国内での不服申し立てを認めないという制度は、誤って適用された場合、難民申請者を迫害や深刻な人権侵害の危険がある国に送還してしまう危険がある。また、 AJ (s. 94B Kiarie and Byndloss questions)で示された通り、誤って送還された難民申請者が送還先の自国から上訴を行うことには様々な障害があるため、判断の正誤を確認すること自体も困難といえる。
② DFTとは?
<概要>
制度の特徴は審査期間の短さと収容措置にある。2003年に運用が開始されたDFTは2005年に運用の見直しが行われ、2014年まで運用は継続された(2005-2014年ルール)。DFT対象は内務省の裁量で決定され、対象者はロンドンの3つの収容所に収容される。インタビューから難民申請の結果決定までの期間が平均して数日間であるだけでなく、不認定の場合、その通知を受けてから不服申し立て可能な期間が2日間に限定されていることなど、通常の手続きと比べて迅速に手続きが行われる。
通常のプロセスと異なり、対象となった難民申請者を収容し、短期間で難民該当性審査を行うDFTは、申請者が証拠を集める十分な時間がない点や、収容によって証拠を集めたり、弁護士などのサポートを受けたりすることが困難になる点が、適切な審査を受ける権利の妨げとなり不公平であった。また、逃亡の恐れがない難民申請者までもが移動の自由が制限されている点28や、拷問の被害者など脆弱性の高い人も収容されていることなど、対象者の選別も問題となった。
イギリスの民間団体Detention Actionを中心に複数の団体が行政訴訟を提訴して上述の問題点を指摘している29ほか、独立主任検査官による勧告30(2011年)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:2012年)の懸念表明31などが行われた。それにもかかわらず2014年には更なる迅速化を目指して運用の見直しが行われた(2014年ルール)が、翌2015年に違法であると裁判所が判決を下し、それ以降DFTは停止している。
表1:通常のプロセスとDFTの比較
通常のプロセス | DFT | |
---|---|---|
一次審査までの期間 | 2か月以内 (目安)32 | 制度:DFT到着から2日以内 運用:平均11日33 |
異議申し立てまでの期間 | 通知後14日以内 | 通知後 2日以内 |
一次審査からFFTの審査終了までの日数(平均) | 6か月以内 34(目安) | 制度:DFT到着から11日(目安) |
収容の有無 | なし | あり |
<DFTに関する行政裁判>
DFTの停止を命令した2015年の判決に先立ち2014年には、脆弱性が高い拷問の被害者や精神疾患を抱える難民申請者がDFTの適用対象となり収容されていたことが明らかになり、裁判において「選別に問題がある」ことが指摘されていた。また、同年、移民・難民の収容問題に取り組む民間団体Detention Actionが起こした裁判において、DFTの対象となった難民申請者が自動的に収容される仕組みが問題視され、逃亡の恐れがないケースは解放するように命令された35。
翌2015年にDetention Actionが提訴した行政裁判で、当時、運用されていた2014年ルールは制度的に不公平さを内包しており、越権行為(ultra vires)であるとの判断が下された。また、同年他団体が提訴した訴訟においても、拷問、性被害、人身売買の被害者が誤ってDFTの対象となり、収容されていた問題が認定されている。2015年7月にDFTの一時的な停止が政府から発表され、翌月までに323人の難民申請者が解放された。
その後、Detention Actionが提訴した別の裁判において2017年には、2005-14年ルールも越権行為であるとされた36。DFTが停止された後も、内務省はたびたび同様の制度の復活を図っているが、裁判所により許可されていない37。2005年からの約10年の間にDFTの制度下で難民不認定となり送還された人は10,000人を超えており、不平等な制度下で送還された人に対しては自国から裁判所に再審を求めることが認められている。
<DFTの課題>
難民該当性がないという判断に基づくNSAの運用とは異なり、DFTは迅速に難民認定の決定を下せるという「迅速化」が制度の目的であるが、実際には根拠がないとされる申請者に対して運用されており、不認定が前提になっていたとの指摘もある38。裁判所の判決においてDFTが「制度的に不公平である」と認定されたのは、主に以下の2点にある。
- 審査までの期間が非常に限られているため、主張を裏付ける証拠確保のための十分な時間が与えられていない。
- 内務省の裁量でDFTが適用された場合、逃亡の可能性がない難民申請者が収容される。
DFTの制度下で送還された10,000人を超える難民申請者に対しては、審査のやり直しを求めて控訴する権利が認められている。しかし、イギリス国外に送還された者が控訴することは容易ではない。2019年になって初めて、DFTにより不利益を被ったと裁判所(高等法院:High Court)に認定され、不服申し立てのやり直しを認められた39。
イギリス国外から控訴したウガンダ女性のケースでは、彼女のセクシャリティが難民該当性審査の重要な論点であったが、それを証明するための十分な時間が与えられなかったことが問題となった。内務省もウガンダにおけるセクシャルマイノリティーの迫害の危険を認めているが、彼女が拘束された際に部屋に男性といた点や、イギリスでのパートナーであると主張する女性とは収容所でも連絡を取れる状況であったにもかかわらず証言を得ようとしていないなどを理由に、彼女はレズビアンでないと判断した。しかし、実際は時間的制約により医師の診断書などの重要な証拠や同性パートナーの証言などを提出できなかったという。ウガンダから提訴された裁判で、原告の訴えが認められ、不公平な制度下で下された不服申し立てのやり直しのために、イギリスに入国することが認められた。裁判所は、内務省に対してイギリスに再入国するために可能な限りの支援をするように命じた。しかし、送還により彼女が受けた被害は甚大であり、報道によれば、ウガンダでセクシャリティを隠して生活することを強いられただけでなく、性暴力被害を受け、望まない妊娠・出産を経験した40。
3. イギリスの難民認定制度の変遷から見える課題
イギリスでは難民申請者の増加を受け、難民受け入れ負担の減少と効率的な運用を目指してNSAとDFTという迅速処理制度が作られた。NSAは第三者機関の勧告や裁判所の判決を受け、ガイドラインを改正し、適切な運用体制の確立に向けた試みが行われている。実際に、安全であると指定されている国の出身者に対してもNSAの適用は限定的であり、適用判断には慎重な姿勢が見られる。しかし、2017年、2018年の判例からも明らかなように、近年でもNSAの不適切な適用事例は存在しており、2019年のガイドライン改訂によってこのような事例をなくすことができるのかは注視していくべきであろう。
一方、DFTは2015年以降停止されており、政府は制度を改正し施行を試みているが、現在まで審判所手続委員会(Tribunal Procedure Committee)により、許可されていない。これは短時間のインタビューによる振り分けでは、DFTの適用可否を判断することが困難であること、収容によって申請者が受ける不利益に対する抜本的な対策が行えていないこと、脆弱性が高い人を収容する危険性があることなど、DFTの適切な運用には様々な壁が存在するためである。
本稿ではイギリスの迅速処理制度の仕組みを概観し、その課題を明らかにしてきた。審査を迅速化・簡略化する政策は適切に運用されれば、難民申請の増加に伴う受け入れ負担を軽減できるだろう。しかし、イギリスの事例からも明らかなように適切な迅速処理制度の構築は容易ではない。また誤った判断によって難民申請者の権利が制限され、最悪のケースでは庇護対象の可能性が高い難民を送還してしまったことがわかる。前述のウガンダ人女性の事例はその顕著な例であるが、実際には彼女以外にも送還後に迫害や深刻な人権侵害の被害にあった難民申請者がいると考えられる。また、短期間であっても収容が難民申請者に与える影響や不利益について裁判所は言及しており、逃亡の恐れがない難民申請者は解放するようにイギリス政府に命令を下している。
NSA・DFTともにその適用判断が誤っていた事例があることが裁判によって明らかになっており、イギリスが行ってきた「司法審査を受ける権利の制度的な保障」だけではセーフティーガードとしての機能が不十分であったといえる。そのため、NSAにおいては判断の質の向上のためにガイドラインの改正が重ねられ、DFTは運用自体が停止されている。難民の受け入れ負担を軽減するための制度設計においては、その制度が難民申請者に与える影響を十分考慮した上で、誤った判断によって重大な難民申請者に不利益を与えることのないように慎重な制度設計が求められるだろう。
(以上)
- House of commons library “Asylum Statistics.” [ https://commonslibrary.parliament.uk/research-briefings/sn01403/] (14. May. 2020).[↩]
- 内務省の審査と不服申し立ての審査を含めた審査期間の合計。[↩]
- アジア福祉教育財団 難民事業本部「英国における 条約難民及び庇護申請者等 に対する支援状況調査報告」p.3 [ http://www.rhq.gr.jp/japanese/hotnews/data/pdf/69.pdf] (最終閲覧日2020年5月14日)。[↩]
- この基本原則は「難民保護の礎石」と言われ、難民の地位に関する条約第33条(1)に明確に規定されている。この原則は、難民認定を受けた人だけでなく、難民申請者にも適用され、難民認定の可能性がある難民申請者を、その地位が判断される前に送還・追放してはならないということは、確立された国際難民法の原則となっている。また、国際的人権法や地域的な人権法は、基本的人権が侵害される重大な危険性のある国へ個人を送還することを抑止しており、人権の観点からも送還には慎重な判断が求められている。ノン・ルフールマン原則については国連難民高等弁務官事務所(以下、UHNCR)「難民の権利と義務」参照。UNHCR 「難民の権利と義務」[ https://www.unhcr.org/jp/right_and_duty] (最終閲覧日2020年5月14日)。[↩]
- 前掲注1。[↩]
- 法務省「我が国における難民庇護の状況等」[https://www.moj.go.jp/isa/content/930005070.pdf]最終閲覧日2020年5月14日)。[↩]
- aida and ecre “Accelerated procedure – United Kingdom” [ https://www.asylumineurope.org/reports/country/united-kingdom/asylum-procedure/procedures/accelerated-procedure] (14.May.2020).[↩]
- aida and ecre “Regular procedure – United Kingdom” [ http://www.asylumineurope.org/reports/country/united-kingdom/asylum-procedure/procedures/regular-procedure] (14 May. 2020).[↩]
- 難民に該当しない場合でも、EU資格指令を国内法化した「人道的保護の地位」や申請者個々人の特別の事情に基づく「裁量的許可の地位」が認定される場合もある。[↩]
- 年によって変動はあるが、2004年~2018年の平均でも内務省の審査で不認定となった申請者の4分の3が不服申し立てを行い、その内4分の1以上の割合で不服申し立て後に在留が許可されている。ただし、イギリスではEU指令に基づく補完的保護(人道的保護の地位)の枠組みも存在するため、難民の地位と補完的保護の対象者の合算が庇護対象として集計される点には留意が必要である。しかし、イギリスにおける人道的保護の認定率は難民の地位の認定率に比べ低い傾向があり(例えば、2019年における難民認定率は決定数全体の約45%であるのに対し人道的保護は4%)、そのほとんどが難民条約に基づく難民認定であると考えられる(前掲注1)。[↩]
- イギリスの不服申し立てと司法審査については、ロバート・トーマス(洞澤訳)「イギリスにおける審判所と移民に係る司法審査」が詳しい。[ nanzan-u.repo.nii.ac.jp](最終閲覧日2020年5月20日)。[↩]
- ただし、年齢、イギリスでの在留期間、イギリスとの関係性の強さ、家庭の状況など各申請者の個別の事情が考慮され、在留が認められる場合もある。この場合の在留期間は、個別の事情により異なる。[↩]
- ただし、再申請の際にはHome Officeが事前に定められた再申請の基準を満たすか判断を行う。そのため、一回目の申請と同じ内容の申請は追加の証拠がない限り認められない。[↩]
- イギリスにおける退去命令は必ずしも国による送還を指すわけではなく、自主的に帰国に応じる場合は帰国支援を提供している。詳しくはイギリス政府のサイト、GOV.UK “Get help to return home if you’re a migrant in the UK”を参照。[ https://www.gov.uk/return-home-voluntarily/apply](14. May. 2020).[↩]
- Nationality, immigration, asylum act 2002.[↩]
- John Vine CBE QPM(Independent chief Inspector) “An Inspection of the Non-Suspensive Appeals process for ‘clearly unfounded’ asylum and human rights claims October 2013 – February 2014” [ https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/546976/NSA-report_July_2014.pdf] (14. May. 2020).[↩]
- 同上。[↩]
- 前掲注16。[↩]
- 例えば、UK – R (FR and KL (Albania) ) v Secretary of State for the Home Department(European Data Base Asylum Law “UK – R (FR and KL (Albania) ) v Secretary of State for the Home Department, 23 June 2016” [ https://www.asylumlawdatabase.eu/en/case-law/uk-r-fr-and-kl-albania-v-secretary-state-home-department-23-june-2016] (14. May. 2020).[↩]
- ここでいう出身者とは安全な第三国において在留資格をもつ当該国の国民、二重国籍者または長期的滞在者で合法的な滞在資格を持つものである。Home Office “Certification of protection and human rights claims under section 94 of the Nationality, Immigration and Asylum Act 2002 (clearly unfounded claims) Version 4.0” [ https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/778221/certification-s94-guidance-0219.pdf] (14. May. 2020). 以下、NSAの制度に関しては、特に注釈がない限り、この内務省の資料を参照している。[↩]
- GOV.UK “Asylum and Resettlement summary tables (Total eligible for the non-suspensive appeals process 1, 2)” [ https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/868567/asylum-summary-dec-2019-tables.xlsx] (14. May. 2020). なお、安全な第三国出身者以外でNSAが適用されたケースは2019年においては157人であった。[↩]
- 前掲注16。[↩]
- 2007年に制定されたUK Border Act 2007で設置されたポストで、内務大臣と行政官が行う移民、難民、国籍、税関業務の効率と効果を監視し、報告する役割を与えられている。主任監察官は公選で任命され、政府から独立しており、その報告は議会に提出される(Gov.it “independent Chief Inspector of Borders and Immigration” [ https://www.gov.uk/government/organisations/independent-chief-inspector-of-borders-and-immigration] (14.May.2020).[↩]
- 前掲注16 p.9。[↩]
- DFTに関する訴訟を提訴したDetention Actionの報告による。以下、特に注釈がある場合を除き、DFTに関する情報はDetention Actionの報告を参考にしている。(“Detained Fast Track” [ https://detentionaction.org.uk/get-involved/detained-fast-track/ ] (14. May. 2020) )。また、同団体が2011年に発行したレポートでは制度の整理だけでなく、被収容者へのインタビューから被収容者の経験を明らかにしている。詳しくはDetention Action “Fast Track to Despair The unnecessary detention of asylum-seekers” [https://detentionaction.org.uk/wp-content/uploads/2018/12/Fast-Track-to-Despair.pdf] (14. May. 2020). [↩]
- John Vine CBE QPM(Independent chief Inspector)”Asylum: A thematic inspection of the Detained Fast Track” [ https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/546246/Asylum_A-thematic-inspection-of-Detained-Fast-Track_2012.pdf] (14. May. 2020).Detention Actionによれば、DFTが適用された難民申請者の不認定率は約99%であった(前掲注20)。[↩]
- 前掲注5。[↩]
- EU人権条約として知られる「人権と基本的自由の保護のための条約」及びイギリス国内法は、移動の自由を認め、その権利を制限する収容措置の適用に制約を設けている。難民申請者は「逃亡の恐れがある」、「公共の福祉に危険を及ぼす可能性がある」、「送還が決定している」など特別な場合を除いては収容されない。詳しくは、Home Office “ Enforcement Instructions and Guidance – Chapter 55” [ http://bit.ly/2t3RRCs.] (14. May. 2020).[↩]
- 詳しくは Detention Action “DFT Legal Challenge” [ https://detentionaction.org.uk/dft-legal-challenge/] (14. May. 2020).[↩]
- 前掲注26。[↩]
- UNHCR “UN Refugee Agency (UNHCR) raises key concerns with the Detained Fast Track” [ https://www.unhcr.org/news/press/2012/2/57cd92be7/un-refugee-agency-unhcr-raises-key-concerns-with-the-detained-fast-track.html] (14. May. 2020).[↩]
- 2007年に発行された報告書(前掲注3)を参照にした。2011年に発行された報告書(前掲注26)のによれば、明示的な期限は設けられていない。現在、政府のウェブサイトにおいても、時期に関する言及はない(GOV. UK “Claim Asylum in UK: After your screening” [ https://www.gov.uk/claim-asylum/after-your-screening].また、2019年2月まではインタビューから決定通知までの期間を6か月と定めていたがその目安も廃止されている(前掲注8)。実際の審査期間は年により異なるが、長期化が指摘されている。[↩]
- 平均日数については、前掲注26を参照した。[↩]
- 同脚注25。[↩]
- 判決を受けて、内務省はDFTの対象全員の収容の妥当性について評価し、逃亡の恐れがない場合は解放することになったが、大多数が「逃亡の恐れがある」とされ、解放されなかった(前掲注29)。[↩]
- 前掲注29。[↩]
- 前掲注7。[↩]
- 前掲注7。[↩]
- PN (Uganda) v The Secretary of State for the Home Department [2019] EWHC 1616 (Admin) (24 June 2019)[↩]
- The Guardian “Home Office must help woman unfairly deported to Uganda to return to UK”, 04.July.2019 [ https://www.theguardian.com/global-development/2019/jul/04/home-office-must-help-woman-unfairly-deported-to-uganda-to-return-to-uk-pn]、Independent, 29.July.2019 “Gay woman unlawfully deported to Uganda blocked from flight meant to bring her back to UK” [ https://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/asylum-seeker-uganda-woman-home-office-blocked-flight-a9025486.html] (14. May. 2020).[↩]