第7回若手難民研究者奨励賞 講評

第7回若手難民研究者奨励賞 講評

2019年7月

文責:選考委員会

(1)応募状況

 本年は過去最多の18件の応募があり、内1件は、第5回より設けられた過去受賞者による再申請枠への申請でした(後日、現地調査予定地域の安全状況により1名の申請辞退があり受理)。
 これまで同様、首都圏だけでなく四国を含む西日本(7件)、東北地方(1件)、また海外に研究のため滞在している方からも4件の申請がありました(イギリス及びオーストラリア)。大学学部生の応募1名のほかは、大学院生以上(修士課程7名、博士課程3名、大学所属教員・研究者4名)の方、NGOを含む民間団体からも3名の応募があり、応募者全員が若手研究者であると判断しました。
 また研究専門分野では、文化人類学及びメディア研究を含む社会学系、政治学系、法学系、経済学系、医学系など、例年と同様に多彩な顔ぶれとなりました。

(2)選考過程

 選考に当たっては、研究・専門分野が異なる研究者(4名)と実務者(1名)から構成される5名の選考委員を選任しました。審査は、(1)選考委員による個別審査と、(2)選考委員会における協議の2段階で進められました。再申請枠については、別途審査を行いました。また今回から、選考基準をより明確にするために、選考マニュアルを策定するとともに、申請内容に応じて、所属機関における倫理規程や個人情報保護規程、調査地域の「危険度」による研究計画変更の可能性についても、該当する申請者に対して事前に確認及び提出を求めました。
 まず、第一段階として、各選考委員が個別に書類審査を行いました。応募書類および参考資料の内容をもとに、各選考委員が各申請者を次の5つの選考基準項目をもとに点数とコメントをつけました。選考の基準は、【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】とし、それぞれの項目を総合的に勘案したうえで採点と順位づけをしました。第二段階として、選考委員会を開催し、各選考委員の得点および順位付けを基に、選考委員から高い評価を受けた申請者について、選考委員全員で個々の申請内容を協議し、授賞者の選定を行いました。
 あわせて、以下の2点を特に留意しながら選考を行いました。
 第一に、研究の意義、目的、研究手法、研究計画が明確であり、それらの間に整合性や研究実績があるか、それによって一定の期間に学術的な成果論文を完成させられるかという判断です。本奨励賞の選考の特色として、研究者のみならず実務者が選考委員に入っているため、研究と実務の双方の観点から、研究テーマや研究方法、調査内容の妥当性や実証可能性が厳しく審査されました。
 第二に、難民研究に対する学術的貢献度と、実際の難民状況の解明や改善に資するかという社会的貢献度についても議論されました。難民研究の特性に鑑み、“for refugees”(難民のための難民の視点に立った研究であるか、難民の権利保護に資する研究であるか)という観点からも審査しました。

(3)全体講評

 研究分野の全体的な傾向としては、1)難民の受け入れ、社会統合などに関して、従来の研究を発展させる形で独創的なアプローチを試みようとする研究、2)過去の奨励賞と同様に、法学や政治学、社会学や人類学などの難民研究でこれまで中心を担ってきた学問領域ではない保健学、メディア研究などからのアプローチを試みた研究に大別できますが、これまで同様、日本における難民研究の進化と裾野の広がりをあらためて実感させる研究が多く見られました。今回は残念ながら受賞を逃したものの、研究テーマ、研究計画などの再検討によって、より発展した研究が期待される申請も少なくありませんでした。
 また、過去の受賞者数は、この数年間を含め4名であることが多かったのですが、必ずしも4名と定められているわけではなく、以上のような選考過程を経た上で、一定の水準を超えることが期待される申請を授賞対象としてきました。

今回は、選考委員会の討議の結果、以下の3名への授賞を決定しました。

(4)受賞者3名の授賞理由(50音順)

 1)佐藤 麻理絵 (さとう まりえ  SATO, Marie) 

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 助教 (中東地域研究、国際政治学)

『 ヨルダンにおける都市難民の居住動態と空間変容』

  • 授賞理由:関連する研究業績も数多くあり、すでに豊富な調査経験もあるため、一定の研究成果が期待される研究内容でした。難民の居住形態や居住空間に着目し、難民をめぐる地理的・空間的・生態的な動態を航空写真により考察するという手法自体もユニークであり、難民研究の新しい地平の開拓が期待されます。一方で、学問的な意義とりわけ難民研究における意義について、今後はより明示的であることが望まれるでしょう。  

 

  2)飛内 悠子(とびない ゆうこ TOBINAI, Yuko)

        盛岡大学文学部准教授(人類学、アフリカ地域研究)

『 難民とキリスト教:北部ウガンダの難民居住区におけるScripture Union の活動に注目して』

  • 授賞理由:若手性に関する評価は相対的に厳しかったものの、その他の審査項目においてすべての選考委員が高く評価しました。先行研究の経験、実績も十分にあり、研究目的、計画性ともに明確で、わかりやすいものでした。これまでの研究によって十分に裏付け、継続された研究対象および問題関心を有しており、文化人類学・地域研究と難民研究の架け橋となる貴重な研究となりうるでしょう。少なくとも日本国内における難民研究において、その蓄積が十分とは言えない難民と宗教との関係という着眼点に一定の独創性を認めることができます。

 3)若松 亮太(わかまつ りょうた WAKAMATSU, Ryota)

モナッシュ大学(オーストラリア)School of Social Science 博士課程(社会学(移民・難民研究、社会政策研究)、応用倫理学(環境正義論))

『海外に渡った福島原発事故避難者の難民性について:環境正義の視点からの検討』

  • 授賞理由:原発事故者を「環境難民」、一つのマイノリティ・グループとして捉えた研究テーマの独創性及び難民研究における意義について、一定の評価を認めることができます。研究計画の論理構成や、過去の業績との連続性、既に調査対象者とのコンタクトがあることなどを考慮すると、研究成果の実現可能性も高いと思われます。今後は、先行研究を十分に踏まえた上での研究成果が望まれるでしょう。

 以上3組の受賞者の研究は、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるもの、また社会的意義も高いものになると評価され、その研究成果を一定の期間において論文にまとめられる実力が各受賞者にあると判断されたため、授賞に至りました。
 なお、再申請枠には申請があったものの、審査の結果、該当する方がいないと判断しました。

以上

*第7回若手難民研究者奨励賞の募集要項はこちらからご覧いただけます。
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