近年、国内外の難民問題への関心は高まっており、学部生や大学院生の中でも、難民に関する研究に取り組む人が増えているようです。「日本をフィールドにした難民調査をしたい」「日本に暮らす難民の話を直接聞き、論文を通じて声を届けたい」などの日本での難民研究・調査への想いを伺う機会も増えました。さまざまな視点で難民研究が増えていくことに期待を感じます。
一方で、出身国から逃れてきた難民と向き合って調査をすることは簡単なことではありません。難民への関心から行われた調査・研究が、難民の個人情報守秘を犯したり、その後の生活に大きな影響を及ぼす可能性もあることが、十分には共有されていないと感じることもあります。研究に参加した難民にそのような不利益を与えることを避けるためには、注意しなければならないポイントがあります。
この点についての理解を深めるために、難民研究フォーラムでは、これから日本で難民に関する調査・研究を始めたいと考えている方、また日本国内を中心に難民への調査・研究を行っている若手研究者の方を対象に、「難民を対象とした調査・研究における倫理的配慮に関する提案―難民の個人情報と難民を取り巻く状況への理解のために―」を公開しました。
今回のシンポジウムでは、この提案書の内容を踏まえつつ、国内外での豊富な難民への調査経験を持つ研究者と実務家が一緒になって、「どうすれば十分に倫理的配慮をしつつ、”For Refugees”の研究ができるか?」を考えます。
難民研究に関心がある学部生や大学院生はもちろんのこと、すでに難民研究に取り組んでいる若手研究者の方や、学生を指導する教員の方もぜひご参加ください。
【概要】
- 日時:2025年1月25日(土) 11:00~13:00
- ZOOMウェビナーを利用したオンライン開催 ※録画アーカイブの配信は予定していません。
- 参加費:無料
- 申し込み方法:要事前申し込み → こちらのURLより申し込みください。
- お問い合わせ:難民研究フォーラム事務局(info@refugeestudies.jp) 担当:山田
【パネリスト】
工藤晴子 (神戸大学:国際社会学、移住研究、難民・強制移動研究、ジェンダー / セクシュアリティ))
難民支援協会でのインターンと調査員、アメリカ、イギリス、日本の大学院(社会学と難民・強制移動研究)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCRエジプト、トルコ)勤務等を経て、現在は神戸大学国際文化学研究科教員。2024年度はカナダ・ヨーク大学難民研究センターにて客員研究員。
人見泰弘 (武蔵大学:国際社会学、移民・難民研究、グローバリゼーション)
森 恭子 (日本女子大学:社会福祉学、国際・多文化ソーシャルワーク論)
日本の大学院を卒業後、社会福祉法人日本国際社会事業団で、ソーシャルワーカーとして国際養子縁組と難民支援に携わる。その後、シドニー大学院で移民・難民研究を学び、帰国後、富山短期大学、文教大学での教育活動を経て、2022年度より人間社会学部社会福祉学科教授。
赤阪むつみ (認定NPO法人 難民支援協会:難民支援、実務家)
大学院修了後、NPO法人日本国際ボランティアセンター(JVC)のラオス事務所にて、森林保全に関連した地域開発と政策提言活動を行う。その後、シュタイナー教育活動を経て、2014年に難民支援協会に入職。定住支援部、支援事業部を経て、2018年より渉外チーム マネージャー。
■パネリストに聞きました!
工藤晴子さん
難民・強制移動とジェンダー/セクシュアリティの関わりについて研究しています。現在はカナダの難民受け入れをめぐる制度やアクターを中心にトロントで調査を実施しています。支援団体の方々にお話を聞いていますが、彼女たちが難民としての移動を経験しているということがよくあります。
支援団体職員として、コミュニティのメンバーとして、友人として、調査者として…様々な関わりのなかでの記憶が入り混じっていて、そこから印象を取り上げることができないのですが、シンポジウム当日は調査者としての関わりを軸にしてお話しできればと思います。
卒論提出直後から大学院留学前の期間に、難民支援協会でインターンとして活動し、ほぼ毎日難民の方と関わったことです。その当時、ソーシャルワーク、国際法、政治哲学、アドボカシー、日本語教育など様々なアプローチで難民のイシューに関わっている人々に出会えったことにも影響を受けています。
アイススケートです。
倫理的配慮は、技術的・手続き的なものにとどまりません。いかに、研究対象としての難民と知の生産者としての研究者、という非対称な権力関係を揺るがすアプローチに繋げることができるか考える機会になればと思います。
森 恭子さん
難民を含めた移民・外国人の支援に関するソーシャルワーク。最近は、外国に背景をもつ子どもたちの学習支援教室を運営していることから、子ども・若者の教育と福祉の連携に関する支援の在り方について関心をもっています。
若い頃に、中東からの難民申請者の男性に住居支援をしたときのこと。「家族を呼び寄せるために広い家を探したい」と、いくつか住居を調べて提案したものの、どれも狭いと言われ、東京では無理だと説明したのですが、本人は納得がいかずに怒って帰ってしまいました。その後本人は、本人の描くイメージと現実の厳しさとのギャップを徐々に受け入れるようになり、私も彼に対する理解不足を反省しながら、信頼関係を築けるようになったことが印象に残っています。
大学院生のときに、自宅の壁の塗装工事に外国人労働者の人がやってきました。当時、”不法滞在者”が社会問題となっていたため関心をもち、大学院の修論で非正規外国人の福祉問題を扱うことになりました。その後就職した先で、初めて難民の人たちに接しましたが、日本で彼・彼女らが生きていくことは大変だと痛感したことから、難民研究を始めました。
最近は、子どもたちの学習支援に関わっているため、特に中学の数学を勉強し直しています。認知症予防にもなるかなあと思っています。
さまざまな研究方法があると思いますが、難民の人たちを調査対象者(協力者)とするとき、難民の人たちや支援者の人たちそれぞれが気持ちよく研究に協力してもらうにはどうすればよいかを考えて頂ければと思います。
赤阪むつみ
難民一人ひとりの相談を受ける活動をしています。それに加えて、難民とともに暮らす社会の実現に向けた法制度の確立を目指し、関係者や市民団体とのネットワーク構築、政府や国会議員などへの働きかけを行っています。難民への直接支援で必要とされていることや課題解決のため政策提言に反映させるようにしています。
ある時、心を病んで入院したシングルマザーの難民の様子を確認しに行ったときに、開口一番、彼女が「ありがとう、あなたの家族は元気?」と言われたのが印象的でした。大変な状況で、自分のことだけで精一杯だろうと思うのですが、私の家族の心配をしてくれました。苦労や困難を乗り越えてきているからこそ、他者への思いやりの気持ちがあるのだと感じています。他にも日々の活動の中で、難民の方々が感じさせてくれる「温かさ」は私が活動を続ける理由になっています。
高校生時代に訪問したネパールで草の根で医療活動をしていた岩村昇医師に出会い、自分もそのような仕事をしたいと思い、実現してきました。日本での生活をしていく中で、日本が抱える国際問題の一つの難民問題に当事者として関わりたいと思い、難民支援協会に参加することになりました。
海外で出会った美味しい料理を再現することをはじめ、各国の料理やスィーツを作ることです。今は、世界の歴メシにはまり始めています。
難民認定されるべき人が認定されず、制度の不備のために脆弱な立場に置かれている、命の危険がある母国に送還されてしまう・・・そういう方々と日々接していると、気軽に「難民にインタビューをしてみたら?」とは言えませんが、一方で、難民の現状を知らないままにメディアやネットの情報だけで「難民像」が広まってしまうことにも危機感を持っています。私もこのジレンマに向き合って、難民の安心・安全を最優先にしつつ、学生さんが難民研究に取り組むにはどうすればいいのかを一緒に考えたいと思っています!
※人見さんからの回答は追って掲載します
難民研究に関心をお持ちの方はこちらもご覧ください。
開催報告:
[公開シンポジウム] 若手研究者が語り合う「難民研究の面白さと難しさ」 ~学部生・大学院生への第一歩~
https://refugeestudies.jp/2022/08/sympo220927/