[公開シンポジウム] 若手研究者が語り合う「難民研究の面白さと難しさ」 ~学部生・大学院生への第一歩~

公開シンポジウム

開催報告を掲載しました。

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  • ニュースや授業などを通じて抱いた『難民問題への関心』をどのように『難民研究』にブリッジしていけるのか?
  • 難民研究だからこそ見えてくるものは何なのか?
  • 難民に会わなくても、難民研究はできるのか?

難民研究に関心を持つ学部生・大学院生や指導教員の方を主な対象に開催した公開シンポジウムでは、上記のような疑問をテーマにパネルディスカッションを行いました。

「難民研究に関心はあるけど、どうしたらいいのかわからない」
「研究をしているものの、悩みを相談する先がない」
「難民問題や難民研究についてどのように伝えていくべきか考えている」

今回のシンポジウムは、これらの疑問や悩みに対して具体的な解決策を提示するものではありませんが、様々な課題や悩みを抱えながら研究を続けてきた難民研究者が、その思いをそのまま共有し、それでもなお難民研究を行う理由や自分なりの意義について語り合っています。

学問分野や研究アプローチ、研究者としてのキャリアは異なっていたとしても、こうした研究者の語らいは、難民研究に関心を持つ学生の方が初めの一歩を踏み出すヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

登壇者

片雪蘭 奈良大学 講師(文化人類学、南アジア地域研究)
植村充 東京大学博士後期課程/法政大学 兼任講師(EU研究、移民・難民研究・フランス政治)
小俣直彦 オックスフォード大学国際開発学部難民研究センター 准教授(文化人類学)
山田光樹 難民研究フォーラム事務局員
モデレーター:松本悟 法政大学 教授(開発研究)

登壇者の詳細はプロフィールはこちらからご覧いただけます
当日のトークから

片雪蘭

「(日本で)外国人として生きている中で、また、難民研究を進める中で、自分の生活が見えてきました。もちろん、難民とは比べられないほど安定していますが、自分の経験と照らし合わせながら、チベット難民のことを研究しています。国籍や在留資格とは何か、外国にただ滞在するだけでなぜ複雑な書類や費用がかかるのかという問題を、常に私も経験しながら研究をしています。」

「私の関わる難民とは調査対象というよりも、友人や家族のような関係です。本当に自分はこれまでかれらにとても助けられました。今まで、チベット難民と関わったことで、自分の視野や価値観が大きく変わってきています。難民研究だからこそ感じてきたことだと思います。」

植村充

「一つの学会であっても領域ごとの架橋が難しいと感じます。その理由の一つは、メソドロジーだと思います。それぞれのメソドロジーをどうやって繋げるのかという努力が、日本の中ではあまりなされてこなかったという印象があります。」

「研究を進めていくと、制度的な欠陥によって被害を受ける人がいるという状況を改善しないといけないという点を日々感じています。まず、問題を発見し、改善策を考えていけるのが研究を進めるうえで、強いモチベーションになっていると思います。」

小俣直彦

「(難民に直接話をきいて調査をする場合)単に「面白い」以上の意義があるかどうかは大事なボトムラインとしてあります。」

「難民やAsylum Seekerに与えられるプロテクションをないがしろにしていったときに、我々は将来どんな目にあうのか […] このことを私は難民を通じていつも考えてしまいます。」

「学術研究が政策に与える影響は少ないですが、それだけで終わらないようにしたいと思っています。最近は、例えば、日本語で学術研究ではないノンフィクションを書いたり、新聞や本などの人が目につきやすいメディアでとっつき易いものを書いたりしています。それらによって、難民の人たちへの理解を深めるなど、具体的な方法もできるだけやるようにしています。」

山田光樹

「難民研究フォーラムとして日々、色々な方の難民研究を読む中で”For Refugee”を大切にしています。そこはどのようなアプローチ、手法で研究するにしても同じで、その研究の奥に「実際にいる難民の人たち」を意識した論文になっていてほしいと思っています。そこが見えているかが重要だと思います。」

全文は、こちらのPDFよりご覧ください。

開催案内
概要

日 時:2022年9月27日(火)17:30~19:30
場 所:ZOOMウェビナーを利用したオンライン開催
参加費:無料
お問い合わせ:難民研究フォーラム事務局(info@refugeestudies.jp) 担当 山田

近年、国内外の難民・難民問題への関心は高まっています。学部生や大学院生の中でも、難民に関する研究に取り組みたいと考えている人は少なくないでしょう。

しかし、日本で難民研究をしていく上で、難しさを感じている方もいるかもしれません。例えば、「難民となった人の話を聞きたい」と思っても、年間の認定数が最大となった昨年でも74人に留まっている日本において、認定された人と繋がることは容易ではありません。難民申請者まで対象を広げれば可能性は広がりますが、調査対象者の不利益にならない形で研究を進めていくには、難民に対する深い知見と高度なスキルが求められます。

また、日本で難民研究に取り組む研究者はまだ少なく、自分の専門分野や研究テーマに沿った指導ができる教員にめぐり合えるとは限りません。「周りに難民研究をしている人は少ない」という若手研究者の声も届いています。

そもそも難民研究自体が分野として比較的新しく、難民研究に特化した世界初の研究機関であるオックスフォード大学の難民研究センターが設置されたのは1982年のことです。まだまだ発展途上にあるといえ、研究手法や視点、研究倫理なども日進月歩。それゆえの面白さややりがいもある分野です。

本シンポジウムでは、若手難民研究者によるパネルディスカッションを通じて、学部生や大学院生が難民研究を始める一歩を後押しできるような、学びを提供します。これから研究を始める方はもちろん、すでに研究を進めている若手研究者の方もぜひご参加ください。

登壇者

[パネリスト]

これまでに10回を数える「若手難民研究者奨励賞」では、37名の若手研究者の難民・強制移動に関する研究を奨励してきました。受賞者の多くは、その後も難民・強制移動に関連する研究活動を続けており、すでに教育者として、新たな若手難民研究者を育てる立場にある人もいます。今回はその中から次に紹介する皆さまをお招きして、難民研究についてそれぞれの視点で語り合っていただきます。

各パネリストの自己紹介も、本ページ最後に紹介しています。

片雪蘭(第4回受賞者):奈良大学社会学部講師
専門は文化人類学、南アジア地域研究。主な著書に『不確実な世界に生きる難民:北インド・ダラムサラにおけるチベット難民の仲間関係と生計戦略の民族誌』(大阪大学出版会、2020年)。

植村充(第5回受賞者):東京大学大学院博士課程 / 法政大学人間環境学部兼任講師
専門はEU研究、移民・難民研究・フランス政治。主な論文として「CJEUの司法管轄権の拡大と移民・庇護申請者領域への影響ー司法管轄権の拡大から10年間の検討と理論的含意」『日本EU学会年報』第42号(2022)、「EU共通庇護政策の発展と人権保護規範 -NGOの活動と外的側面の影響を視野に収めてー」『難民研究ジャーナル』第8号(2019)など。

小俣直彦(第5回受賞者):オックスフォード大学国際開発学部難民研究センター准教授
金融機関、NGO、国連開発計画(UNDP)等を経て現職。英語での多数の研究業績のほか、日本語の著作として、博士課程在学中のフィールドワークの経験をもとに執筆した『アフリカの難民キャンプで暮らす – ブジュブラムでのフィールドワーク401日』(こぶな書店、2019年)などがある。

山田光樹(第6回受賞者):難民研究フォーラム事務局。ヴェネツィア大学人文研究科修士課程修了(文化人類学専攻)
2020年1月より現職。学部3年次後期から4年次前期と、大学院修士課程でイタリアに留学し、難民支援施設などでフィールドワークを行う。論文として「『難民のため』の支援とその課題 : イタリアの民間難民施設の隔離と支援=管理メカニズム」『難民研究ジャーナル』第9号(2020年)。

[モデレーター]

松本悟:法政大学国際文化学部教授
NHK記者、JVCラオス事務所代表、メコン・ウォッチ代表理事等を経て現職。タイ・ミャンマー国境の難民キャンプでのフィールドスクール、難民に関心を持つゼミ生への卒論指導等、教育としての難民研究に関心を持っている。


パネリスト自己紹介

片雪蘭さん

Q1 現在の研究分野や研究テーマ

インドに住むチベット難民について研究しています。博士課程では彼らの仲間関係や生計戦略ついて研究をしていました。今は、コロナ禍によって海外渡航が難しくなったこともあり、海外渡航の際における手続きやパスポートの準備過程に焦点を当て、難民と非難民の時間の非対称性について研究しています。

Q2 難民研究を始めた理由

最初から難民研究をするつもりではありませんでした。もともとチベットに関心があったのですが、私が研究を始めようとした時、民衆蜂起が起きました。外国人の出入りが難しくなり、チベットでのフィールドワークを諦め、チベット難民研究へと移りました。もともとチベット難民との交流もあったので、自然にフィールドをインドへシフトすることができました。

Q3 難民や難民研究に関心を持ったきっかけ(影響を受けた人、事象、本、授業など)

大学生の時、始めてチベットへ旅行したことがきっかけでした。旅行中にチベットの状況や歴史を知るようになり、帰国後はチベット人コミュニティに遊びに行ったりしたのですが、その時初めて彼らのほとんどが「難民」であることを知りました。一人一人の物語を聴くうちにもっと勉強したいと思うようになり、文化人類学という観点から難民を研究するようになりました。

Q4 今も難民研究を続けている理由(やりがいや目標など)

今は、難民を研究しているというよりは、友人たちの話を聴きにインドへ行くという表現が適切かもしれません。最初は、難民についてもっと知りたいという理由でしたが、今はチベットの友人たちが今後どのような生活をするのか追い、彼らの物語を少しでも多くの人々に伝えたいという気持ちです。

植村充さん

Q1 現在の研究分野や研究テーマ

欧州統合の深化に伴う、移民・庇護申請者政策領域における共通政策の策定と加盟国フランスの国内政策に対する影響を研究しています。特に、家族移民・経済移民・庇護申請者・非正規滞在者への処遇などの各政策領域の包括的な分析を行っています。   

Q2 難民研究を始めた理由

学部時代は、家族移民や経済的理由に基づく人の移動を主な分析対象としていました。修士課程在籍時にいわゆる「欧州難民危機」が発生し、連日ニュースが流れる中で強制的な理由に基づく「難民」に対する興味も生まれました。 

Q3 難民や難民研究に関心を持ったきっかけ

いわゆる「人の移動」に興味を抱いたきっかけは、学部2年生時にフランス旅行をした際に現地で追剥ぎの被害にあったことです。その際に、日本社会では可視化されない移民を受け入れる社会の複雑さを感じました。 

Q4 今も難民研究を続けている理由

難民研究には様々な切り口があり、その学際性に日々感嘆しています。もちろん各難民が享受すべき権利、受入れ側の国際社会が整えておくべき制度には改善の余地があり、研究がそれらの改善につながることを目標としています。 

小俣直彦さん

Q1 現在の研究分野や研究テーマ

難民の経済活動と国境間移動、現地統合を中心に調査プロジェクトが進行中です。また、研究倫理の問題や第三世界の研究者の育成にも注力しています。

Q2 難民研究を始めた理由

難民の経済活動を支援するNGO、国連機関で働いたことがキッカケです。実務で疑問を持ったことを自ら調査研究したくなったため研究に移行しました。

Q3 難民や難民研究に関心を持ったきっかけ

タフツ大学院フレッチャースクール時代のKaren Jacobsen教授です。

Q4 今も難民研究を続けている理由

まだ学術的に不明なことがたくさんあるため。現在進行中の研究プロジェクトを複数抱えているため。

山田光樹

Q1 現在の研究分野や研究テーマ

現在は、難民研究フォーラム事務局に務めており、自分自身が研究をしているわけではありませんが、(主に日本に暮らす)難民の状況の改善を目指して、国内の難民に対する理解が深まるきっかけを作りたいと思っています。

Q2 難民研究を始めた理由

卒論の研究テーマを探し始めた時点では、漠然と人種差別か多文化共生を研究したいと思っていました。関連する本や論文を読み、指導教員とやり取りを重ねる中で、自分の関心が「社会から周縁化される人たち」であると気づき、留学が決まっていたイタリアで社会問題にもなっていた難民について研究することにしました。

Q3 難民や難民研究に関心を持ったきっかけ

高校留学時に、当時イタリア語をほとんど話せなかった私を温かく受け入れてくれたクラスメートが、路上で物を売っているアフリカ系の人たちに対しては、非常に冷たく、差別的な発言するのを聞いた衝撃が問題関心の根底にあると思います。  

Q4 今も難民研究を続けている理由

難民研究に限らず、研究には偏見や先入観などを覆す力があると思っています。私自身、授業や論文を通じて、自分が「当たり前」だと思っていたことが当たり前ではないことに気づかされた経験があります。難民研究を通じて、当たり前になってしまっている難民・難民問題への考え方が変わるきっかけを作りたいと思っています。

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