掲載:2020年1月9日
収容施設における庇護希望者のハンガーストライキに着目したオーストリアの論文を2本紹介します。詳しくは、下記のリンクより本文をご覧ください。
① Silove, D., Curtis, J., Mason, C., Becker, R., “Ethical Considerations in the Management of Asylum Seekers on Hunger Strike(庇護希望者のハンガーストライキ管理における倫理的考察),” JAMA, 276(5), August, 1996, pp. 410-415.
要旨(文責:難民研究フォーラム) 世界的に広がる庇護希望者の不法滞在増加を受け、各国は収容によって取り締まりを強化しています。しかし、このような収容には人権問題のみならず、収容者の心理的ダメージや健康に関する責任の所在の不明確さ、収容所の運営コストなど課題が山積しています。その中で、近年特に問題視されているのが、1992年シドニーの収容所にて発生したカンボジア人の例(※1)に見られるような「ハンガーストライキ」です。この論文では、難民のトラウマ・ケアを行うオーストラリアのSTARTTSのスタッフの経験に基づき、個人の人権と強制摂食の判断基準、医師の臨床独立性の担保という二つの倫理的問題が論点になっています。また、強い立場にある者が弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援するパターナリズムの台頭についての言及もあります。結論では、これらの課題への解決策として、「ハンスト者自身が認識能力のあるうちに生命維持治療希望の有無を示した事前指示書の導入」「政府機関から独立した中立的な医師の確保」「多分野の専門家で構成された第三者機関の設置」という3つの解決策が提示されています。 |
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② Kenny, M.A., Silove, D.M., Steel, Z., “Legal and ethical implications of medically enforced feeding of detained asylum seekers on hunger strike(法的・倫理的観点から見るハンガーストライキを行う収容中の難民・庇護申請者に対する強制摂食),” Medical journal of Australia, 180(5), August, 2004, pp. 237-240.
要旨 (文責:難民研究フォーラム) 収容中の庇護希望者は、監禁に対するストレスや強制送還への恐怖など様々な理由でハンガーストライキを起こし、その結果、重度の身体・精神障害につながってしまいます。2002年にウーメラ移住受付処理センターで発生した大規模なハンガーストライキ(※2)などを受けて、オーストラリア移民・多文化・先住民関係省(DIMIA)は、身体的危険のある収容者への強制医療行為を合法化しました。しかし筆者は本論文中で、この法律を倫理的観点から懐疑的に捉えています。DIMIAは、倫理的・宗教的な問題となる場合は強制医療行為を推奨していませんが、医療従事者は「命の保護義務」「個人の自律的回復の尊重」「政府の方針」という3つのジレンマに悩まされています。そこで新たな問題提起として、1975年の東京宣言(※3)、1991年のマルタ宣言を通して世界医師会が提示した、ハンスト者管理を行う医師のためのガイドラインを挙げ、医療従事者に対して法的・倫理的責任を自覚し、政府機関からは独立して行動することの重要性を論じています。 |
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※1:1992年10月、オーストラリア・ニューサウスウェールズの病院で、20代〜40代のカンボジア人女性3名が4〜6週間にわたって起こしたハンガーストライキ。カンボジアからボートでオーストラリアに逃れた後、2〜3年間収容され続けていた。
※2:2002年1月、オーストラリア・ウーメラ移住受付処理センターで、249名の収容者が長期化する難民申請審査の改善を訴え、2週間にわたって起こしたハンガーストライキ。
※4:マルタ宣言(原文・英語)https://www.wma.net/policies-post/wma-declaration-of-malta-on-hunger-strikers/