研究会「難民・非正規滞在者の生存権保障」報告

研究会

難民研究フォーラムでは、日本とドイツの事例を通じた難民・非正規滞在者の生存権保障についての研究会を、下記の通り開催しました。

開催日:2023年6月28日(水)、ウェビナー
報告者:大川昭博(実務家、移住者と連帯する全国ネットワーク理事)
    山本響子(法学・憲法学、千葉大学)

・大川昭博:移住者と連帯する全国ネットワーク理事。1987年から自治体の社会福祉職として働くかたわら、移民の医療、社会福祉、社会保障の課題に関わる。移住連には1997年の発足当時から運営委員として参加し、移住連のコーディネート活動として、月に1回各地の実務者の情報共有「外国人医療・生活ネットワーク」を開催。関連する著作として、移住連編『外国人の医療・福祉・社会保障 相談ハンドブック』、 明石書店 、2019年

・山本響子:千葉大学助教、博士。専門は憲法学、公的扶助論。主な業績に「「永住的でない」外国人の生活保護受給権—1980年代および1990年代のドイツを素材とした検討—」早稲田法学 97(4)、77-123頁、2022年;「最低生活保障において禁じられる「移民政策的相対化」の意義」早稲田法学 96(3)、171-215頁、2021年;「外国人の「人間の尊厳に値する最低生活保障を求める基本権」をめぐる現況と可能性—ドイツ連邦憲法裁判所2012年7月18日判決を中心に—」早稲田法学会誌 70(2)、291-348頁、2020年

「人間の尊厳は、移民政策的に相対化されてはならない」
ーードイツ連邦憲法裁判所 2012年7月18日判決

ドイツでは、外国人に対しても、在留資格の有無にかかわらず国内に滞在しているということのみをもって、「人間の尊厳に値する最低生活保障を求める基本権」が、ドイツ人と等しく認められています。国籍や在留資格などによりその給付内容は異なるものの、憲法によって立法・行政の裁量には制約がかけられています。

一方、日本では、行政措置に基づいて保護の対象になる場合もあるものの、外国人は生活保護法の対象ではありません。そのため外国人の中には、最低生活を保障する公的なセーフティーネットにもアクセスできず、衣(医)食住すらままならない状況におかれている人も少なくありません。

このような課題を念頭に開催した本研究会では、まず大川氏より、日本における在留資格を持たない外国籍者を取り巻く生存権保障について解説がありました。例えば、日本国籍者の場合には、「健康保険(被雇用者のみ) < 国民健康保険(住所がある人のみ) < 生活保護(生活に困窮していれば誰でも)」と徐々に要件が広がっていく3つの仕組みにより、生計・生活維持が困難な人も含めて、医療アクセスが保障されます。一方で、外国籍者の場合は国民健康保険には「3か月を超える在留資格」、生活保護には「永住・定住の在留資格」などの制限が課されているため、生活が困窮していくほど社会保障へのアクセスが狭まっていくというひずみが生まれています。このことが移民・難民の生存権保障の範囲から排除していく実態に繋がっている、と大川氏は指摘しました。

続いて山本氏からは、ドイツにおける生存権保障について、2012年判決を中心に報告がありました。同判決は、ドイツの連邦憲法裁判所が、国内に滞在するあらゆる外国人に対して、日本における生存権にあたるドイツ憲法上の基本権を保障すると宣言し、その給付の内容について司法審査を可能にした画期的な判決です。在留資格によって、「人間」として尊厳ある生活をする最低限の保障すらも行われていない日本と比較すると、憲法でこれを保障し、給付内容を削減しようとする立法者に対して司法的コントロールが機能しているドイツの法制度や政策は、参考になるものがあります。この点について山本氏は、その実効性やドイツだけでも47万人以上の庇護申請があった2015年の、いわゆる「欧州難民危機」以降の変化にも目を向ける必要性を指摘しつつ、ドイツの事例から得られる日本への示唆を述べています。

報告書と発表資料は、以下をご覧ください。

◉報告書

◉発表資料

  • 大川氏発表資料 ▷ 資料①
  • 山本氏発表資料 ▷ 資料②
  • 参考資料:日本の難民申請者(庇護希望者)の生活保障に関する概要 ▷ 資料③(事務局作成)

◆難民研究フォーラムメンバーについて
本研究会は、基本的にメンバーを対象にして、年3~4回程度開催しております。
メンバーへのご関心のある方は、こちらよりご覧ください。

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