第5回若手難民研究者奨励賞 講評

第5回若手難民研究者奨励賞 選考経過報告(講評)

2017年7月(2018年3月30日修正)

文責:選考委員会

(1)応募状況

第5回となった今回の奨励事業には、15件の応募がありました。今回も、応募者の専門や研究対象・地域などが大変多岐に富んでいました。具体的にみると、専攻に関しては、文化人類学、政治学、社会学、社会経済学、法学、地域研究、公衆衛生学などがあり、研究対象としてはシリア難民が最も多くありましたが、ベトナム、カンボジア、クルド、南スーダン難民/国内避難民、研究対象地域・調査地としては、日本、トルコ、マレーシア、EU諸国および英国、ドイツ、イタリアなどが挙げられていました。

申請者の所属は、これまで同様、大学院生(博士課程)が多数を占めましたが、大学教員、研究員の方もいらっしゃいました。応募者の所属の地域的分布をみますと、首都圏の大学から6名、関西の大学から3名、中部/東北地方の大学から1名、海外から5名でした。

(2)選考過程

選考に当たっては、研究・専門分野が異なる研究者(4名)と実務者(1名)から構成される5名の選考委員を選任しました。審査は、①選考委員による個別審査と、②選考委員会の開催と協議の2段階で進められました。また今回より再申請の枠組みを新たに導入し、別途審査を行いました。

まず、第一段階として、各選考委員が個別に書類審査を行いました。応募書類および参考資料の内容をもとに、各選考委員が各申請者を次の5つの選考基準項目をもとに点数とコメントをつけました。選考の基準は、【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】とし、それぞれの項目を総合的に勘案したうえで採点と順位づけをしました。

第二段階として、選考委員会を開催し、各選考委員の得点および順位付けを基に、選考委員から高い評価を受けた応募者について、選考委員全員で一人ひとりの申請内容を協議し、受賞者の選定を行いました。

(3)全体講評

全体的な傾向としては、①既存研究では斬新な専門やアプローチで難民を研究しようとする申請、また②難民の主体性やレジリエンスに注目した、難民自身の視点を重視した難民研究を志す申請が多く見受けられ、日本における難民研究のすそ野の広がりと既存の難民研究の超克の兆しを垣間見ることができました。

受賞者の選考にあたっては、以下の2点を特に重要な審査項目として選考を行いました。

  1. 第一に、研究の意義、目的、研究手法、研究計画が明確であり、それらの間に整合性や研究実績があるか、それによって来年4月末までという短期間に学術的な成果論文を完成させられるかという判断です。本奨励賞の選考の特色として、研究者のみならず実務者が選考委員に入っているため、研究と実務の双方の観点から、研究テーマや研究方法、調査内容の妥当性や実証可能性が厳しく審査されました。
  2. 第二に、難民研究に対する学術的貢献度と、実際の難民状況の解明や改善に資するかという社会的貢献度についても議論されました。難民研究の特性に鑑み、for refugees(難民のための難民の視点に立った研究か、難民の権利保護に資する研究か、)という観点からも、審査が入りました。

その結果、以下の5名を受賞者として選出しました。内、日本在住申請者が3名、海外在住申請者が2名でした。

(4)受賞者5名の講評(50音順での発表)

 1). 植村 充 (うえむら みつる):EU研究 移民・難民政策研究 フランス政治研究

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程

『EU共通庇護政策の発展と庇護申請者に対する人権保障の規範浸透 -EUの政策形成ベニューとしての性質変容とその要因分析-』

  • 内定理由:近年のヨーロッパにおける移民政策の動向を掘り下げ、EU全体として難民にどう向き合っているのか、その方針がいかに、何によって維持、変化しているのかという点は興味深く重要なテーマである。修士論文を発展させる形であり、実現可能であると考えられた。リサーチクエスチョンが明確であり、堅実でもある。

2). 小俣 直彦(おまた なおひこ):難民の生計手段、社会経済統合、第三国定住、

本国帰還

オックスフォード大学 国際開発学部 難民研究センター

『第三国定住により英国オックスフォードシャー州に移住したシリア難民家族』

  • 内定理由:これまでの研究とネットワークを結びつけて、第三国定住の事例を考察できそうな計画であり意義は高く、シリア難民とホストの双方に焦点をあてている点が評価でき、英国の事例ながら日本への示唆が期待される。研究実績があるので、一定水準の論文が期待される。英語の業績のみだが日本語も簡潔に要点がまとめられている報告があり、現地に在住しているという強みを活かした論文になることも期待できる。

3)久保 昌弘 (くぼ まさひろ):開発経済学・政治経済学 

ブラウン大学経済学部博士課程

『難民と強制退去者の経済的帰結』 (1998年カンボジア全個票データを用いて難民・強制退去者を特定、彼らの戦後の経済的帰結についての分析)

共同研究者:小暮克夫大阪大学経済学研究科講師

  • 内定理由:センサスを使用した量的な調査であり、難民だったという経験がその後の社会経済的地位に及ぼす影響を明らかにすること、量的調査でしか明らかにされないものであり重要な研究である。すでに下地のある研究を補強するプロセスであり、研究手法は明確で、実現可能性は高いと考えられた。

4). 橋本 栄莉(はしもと えり) :文化人類学 東アフリカ地域研究

高千穂大学人間科学部助教

『難民間の越境的相互扶助ネットワークの歴史形成関する人類学的研究:南スーダン、ヌエル人難民の事例として』

  • 内定理由:南スーダンの難民当事者を対象に調査するものであり、文化人類学的見地からの研究は少ないため貴重であると判断された。これまでの南スーダン難民への研究実績をもとに、今後の難民支援を再検討するにあたって、重要なテーマが設定されていた。研究手法も、段階を踏んで統合しかつ包括的に分析する視野がある。研究の継続性、また実績もあるので一定水準の日本語論文も提出できると考えられた。

5). 徳永 恵美香 (とくなが えみか):国際法(国際人権法、国際人道法) 

大阪大学大学院 国際公共政策研究科 (特任研究員)

『福島第一原子力発電所事故と原子力災害被災者の「避難に対する権利」』

  • 内定理由:日本の研究者が取り組み、発信すべき重要なテーマである。内容的にはまだまだ国内に浸透していない問題提起をあらためて学術的に追及していく姿勢があり、国際法的に分析する視点も独創的である。これまでの研究につながる素地もあり、実現可能性も高いと考えられる。

以上5組の受賞者の研究は、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるもの、また実社会の難民問題への貢献度も高いものになると評価され、またその研究成果を短期間で論文にまとめられる実力が各受賞者にあると判断されたため、受賞に至りました。

今回より新規に導入した再申請枠には申請があったものの該当する方がいないと判断しました。

以上

※受賞者の植村氏、小俣氏、橋本氏、徳永氏の成果論文・報告は、『難民研究ジャーナル』8号に掲載されています。
 こちら から

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