第11回若手難民研究者奨励賞 講評

若手難民研究者奨励賞

文責 第11回若手難民研究者奨励賞 審査委員長 人見泰弘

1. 申請者

本年度の申請者数は10名となり、過去受賞者からの申請はなかった。うち1件が2名による共同研究である。

例年多い関東及び関西に限らず、東海・九州からの応募がみられるなど、本奨励賞が全国的に認知され始めたことがうかがわれる。申請者の応募時点のポジションは、大学院生7名、研究員1名、非常勤講師1名であり、本奨励賞が対象とする若手研究者による応募となった。博士号取得者及び博士課程在学者のいずれもが含まれる。また応募者には実務経験者も含まれている。申請者の専門領域を記すと、地域研究(台湾)・政治学・都市社会学、政治学、人類学・ミャンマー地域研究、臨床心理学、移民研究・地域福祉論・ソーシャルワーク論・協同組合論、中東地域研究、国際社会学・難民研究・強制移動研究・国際関係学、国際人権・難民法、人文地理学・精神保健福祉、ソーシャルワーク理論・社会福祉原論となり、幅広い領域からの応募があった。

2. 審査過程

審査委員会は、研究分野が異なる研究者4名と実務家1名の計5名で構成した。選考は個別審査と全体審査の二段階で行った。個別審査は各委員が審査基準に基づき、項目ごとの得点と順位をつけるとともに、各研究計画の評価できる点及び課題点を付し、これらを審査委員長が取りまとめた。また若手研究者を積極的に奨励する趣旨から、申請書に基づき若手性を点数化した。研究を継続するための基盤(ポジションや研究資金など)が未確立な応募者、研究業績が少ない応募者は若手性のポイントが高くなるように設定し、若手性の点数が高い応募者から順に審議を行った。この若手性を参照しつつ、従来通り審査を行った。問題設定、学術的意義、社会的貢献、研究計画の実現可能性などを検討したことに加え、受賞者には成果論文の提出を求めることから、一定期間内に学術論文が完成できることも考慮した。なお今回は審査委員と利害関係が認められる応募者の申請があったため、選考規定に基づき、この審査には当該審査委員は加わらず、残りの委員による審査を行った。

3. 全体の講評

今回の審査を振り返ると、理論的視点を丁寧に検討して研究目的を明確化できていた計画書や、これまでのフィールド調査ないし実務経験を活かしながら調査研究を行うと説得的に提示できた計画書があり、研究成果に大きな期待を抱かせるものがあった。他方、残念ながら今回受賞に至らなかった研究計画をふりかえると、一つ目に、研究意義が具体的に明示できていない研究が散見された。先行研究との充分な比較検討なしに自らのオリジナルな研究成果を提示することはできない。既存研究に対する発展の内実を意識的に記載することが重要である。二つ目に、研究の実現可能性が曖昧な研究もみられた。本奨励賞は受賞から一定期間内に研究論文の完成が求められるため、限られた期間内に一定の研究成果が出せる着実な計画書であるかどうか検討されるところである。研究を実現できるための準備や工夫を含め、研究が遂行できる着実な見通しを積極的に提示できる能力も求められると言えよう。研究計画書の作成は、研究の意義、調査の実施見通し、研究の波及効果などを自らが振り返る機会でもある。研究の改善点を探り、さらなる研究のブラッシュアップを期待してやまない。

4. 受賞者と受賞理由(50音順)

受賞者及び受賞理由は以下のとおりである。

大場 翠(おおば みどり)

東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 博士後期課程(ミャンマー地域研究、人類学)
「人々の語りを通じた『帰還』の人類学的研究――ミャンマーカレン州レイケイコー帰還村を事例に」

受賞理由:2021年にクーデターが生じたミャンマーカレン州を対象地とし、難民の出身地への帰還に焦点を当てる本研究は、政治体制の変化と難民の帰還を捉える時宜にかなう研究と言える。応募者がクーデター以前から対象地でのNGO駐在員としての滞在経験や調査研究に従事した経験を持つことから、具体的な研究成果の提出も十分に見込まれる。人類学の視点から難民流出が続くミャンマーにおける今後の帰還をめぐる概念の再構築が期待される。

児玉恵美(こだま えみ)

東京外国語大学総合国際学研究科博士後期課程(中東地域研究)
「レバノン内戦期における強制移動と故郷喪失をめぐる記憶を、キリスト教マロン派の家族史から検討する」

受賞理由:レバノンを対象に、強制移動を経験した当事者の記憶の継承を家族史の観点から捉えようとする本研究は、ナラティブ研究を通じて強制移動の影響を明らかにする意義ある研究と言える。国家による忘却の歴史と家族の受容を明らかにし、今後の強制移動の長期的な影響の解明が期待される。

スティーブン・パトリック・マキンタヤ(Stephen P. McIntyre)(共同研究)

一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程(国際社会学、難民研究、強制移動研究)
「長期化する『不法性』と強制送還・収容の可能性で生きる――トルコ出身在日クルド人難民家族のライフヒストリー」

受賞理由:非正規滞在を中心に移民難民研究の学術的意義を精査し、「恒常的な一時的状態(permanent temporariness)」など着目点も明瞭で、今後の成果に期待が持てる研究と言える。すでに調査研究を遂行しており、着実な研究成果が見込まれる。加えて、本研究は当事者との共同研究でもあり、当事者の視点を加味した難民研究への独自のアウトプットが期待される。

以上

*第11回若手難民研究者奨励賞の募集要項はこちらからご覧いただけます。

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