第3回若手難民研究者奨励賞 講評

第3回若手難民研究者奨励賞 選考経過報告(講評)

文責:選考委員会

(1)応募状況

第3回となった今回の奨励事業には、11件の応募がありました。今回も、応募者の専門や研究対象・地域などが大変多岐に富んでいました。具体的にみると、専攻に関しては、人類学、政治学、社会学、地域研究、開発学、国際協力学、日本語学、映像学などがあり、研究対象としては中国、ミャンマー、アフガニスタン、南スーダン、ネパール難民/国内避難民、研究対象地域・調査地としては、日本、タイ、ウガンダ、エチオピア、イラン、フランス、ドイツなどが挙げられていました。

申請者の所属は、昨年同様、大学院生(修士課程/博士課程)が多数を占めましたが、講師、研究員の方もいらっしゃいました。応募者の所属の地域的分布をみますと、首都圏の大学から5名、関西の大学から5名、海外から1名でした。

(2)選考過程

選考に当たっては、研究・専門分野が異なる研究者(4名)と実務者(2名)から構成される6名の選考委員を選任しました。審査は、選考委員による個別審査と、選考委員会の開催と協議の2段階で進められました。

まず、第一段階として、各選考委員が個別に書類審査を行いました。応募書類および参考資料の内容をもとに、各選考委員が各申請者を次の5つの選考基準項目をもとに点数とコメントをつけました。選考の基準は、【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】とし、それぞれの項目を総合的に勘案したうえで採点と順位づけをしました。

第二段階として、選考委員会を開催し、事前に回収した各選考委員の得点および順位付けを基に、選考委員から高い評価を受けた応募者について、選考委員全員で一人ひとり協議をし、受賞者の選定を行いました。

(3)全体講評

全体的な傾向としては、既存研究ではなかなか見られなかったような斬新な専門やアプローチで難民を研究しようとする申請、また難民の主体性やレジリエンスに注目した、難民の視点を重視した難民研究を志す申請が多く見受けられ、日本における難民研究のすそ野の広がりと既存の難民研究の超克の兆しを垣間見ることができました。

 受賞者の選考にあたっては、以下の2点を特に重要な審査項目として選考を行いました。

第一に、研究の意義、目的、研究手法、研究の進め方のすべてがはっきりしているか、それらの間に整合性があるか、それによって来年4月末までという短期間に学術的な成果論文を完成させられるかという判断です。本奨励賞の選考の特色として、研究者のみならず実務者が選考委員に入っているため、研究と実務の双方の観点から、研究テーマや研究方法、調査内容の妥当性や実証可能性が厳しく審査されました。

第二に、難民研究に対する学術的貢献度と、実際の難民状況の解明や改善に資するかという社会的貢献度が、研究者の視点と実務者の視点の双方から議論されました。難民研究の特性にかんがみ、for refugees(難民のための難民の視点に立った研究か、難民の権利保護に資する研究か、)という観点からも、審査が入りました。

その結果、以下の4名を受賞者として選出しました。

(4)受賞者4名の講評(50音順)

・朝隈 芽生(あさくま めい) (大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程)
「長期化する難民状態における人々の社会的排除と包摂―イランにおけるアフガニスタン難民による学校運営を事例として―」


 朝隈さんの研究は、イランにおけるアフガニスタン難民を事例として、難民の自主運営学校が難民にとって果たす「居場所」の役割を分析することで、難民の社会的包摂/排除の様相を明らかにしようとするものです。解決法がないといわれている、長期化する難民、都市難民の状況について、難民当事者を能動的な主体とみなして当事者の視点から難民を研究しようとするアプローチは、難民のレジリエンスを示そうとする、学術的にも実務的にも貴重な試みであると評価されました。

・安齋耀太(あんざい ようた)  (東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士前期課程)
「庇護権と国民国家の関係性に関する社会学的研究―戦後西ドイツの難民庇護政策の起源 ―」


 安齋さんの研究は、今日に至るまで先進国で難民庇護政策が進んでいないという国際社会の課題について、新しいアプローチでその理由を分析しようというものです。この課題の背景に、そもそも難民庇護の法的根拠である庇護権と近代国民国家の理念が矛盾をはらみながら制度化された点に注目し、その矛盾を成立させた社会的条件を、制度化の過程を分析しながら考察するものです。自身のこれまでの研究実績からの研究の発展性がしっかり見えること、庇護権研究に関して先行研究の切り口とは異なる斬新な視点と手法(社会学研究)を用いることで、学問的にも実務的にも新しい視点を提供できる可能性を秘めていることが高く評価されました。

・直井里予(なおい りよ) (京都大学東南アジア研究所所属) 
「カレン難民の移動と定住をめぐる日常実践生活と社会関係の変容―映像ドキュメンタリー制作に伴う考察―」


 直井さんの研究は、映像ドキュメンタリー制作という手法を用いて、タイにいるカレン難民がタイ難民キャンプおよび第三国の定住地に移動し定住する過程を追い、カレン難民が移動と定住の中でどのような日常生活を送り、社会関係を構築しているのかを分析しようとするものです。「映像人類学」、ドキュメンタリーという独創的な手法により、文章では説明しきれない複雑な人間の行為や文化の変容、相関関係を伝えようするアプローチは、難民研究および実務に新しい解釈と視点を提供しうるだろうという、高い期待が集まりました。

・村橋 勲(むらはし いさお) (大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程)
 「ウガンダにおける南スーダン難民の経済活動と生計戦略―キリヤドンゴ難民定住地の事例から―」


 村橋さんの研究は、ウガンダにおける南スーダン難民の生業・経済活動を明らかにすることで、難民の生活戦略を社会経済的に分析しようとするものです。「難民が避難先においていかにして生活と社会ネットワークを再構築していくのか」という生活戦略を明らかにすることは、国際社会が援助以外の持続的難民対応手法を探るという実務面でも意義深いという意見が出されました。また、すでに数年にわたって行ってきたフィールド調査を基にした研究計画であるため、調査研究の実現可能性が高いと判断されました。

 以上4組の受賞者の研究は、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるもの、また実社会の難民問題への貢献度も高いものになると評価され、またその研究成果を短期間で論文にまとめられる実力が各受賞者にあると判断されたため、受賞に至りました。

以上

※受賞者安齋氏、村橋氏の成果論文・報告は、『難民研究ジャーナル』6号に掲載されています。 こちら から。
 また、朝隈氏の論文は、『難民研究ジャーナル』6号には掲載できませんでしたが、こちらから成果論文を読むことができます。

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