1.申請者
本年は新規申請者8人、過去受賞者(以下、再申請者)2人、合計10人の申請がありました。申請者は首都圏と京阪神で占められ、海外からの応募はありませんでした。新規申請者のうち大学院生7人、特任助教が1人で、常勤研究者はいませんでした。再申請者2人は大学院生でした。各申請者の専門分野やテーマは申請順に、国際政治学、助産学・母子保健・母性看護学、文化人類学、地域研究、人間の安全保障、国際公法、紛争・平和研究、国際教育開発、国際協力・平和構築、国際関係論でした。
2.審査過程
審査にあたっては、研究・専門分野が異なる研究者4人と実務者1人から構成される5人の審査委員を選任しました。審査は、(1)審査委員による個別審査と、(2)審査委員会での協議の2段階で進められました。各審査委員が審査基準にもとづき得点と順位、評価できる点と課題をそれぞれ記載したうえで審査委員会を開催しました。
また今回から若手研究者を積極的に奨励できるように、申請書にもとづき若手性を点数化しました。具体的には、研究を続けていくための基盤(地位や研究資金)が安定的ではない者、研究の業績が少ない者は「若手性」のポイントが高くなり、そうでない者は「若手性」のポイントが低くなるように基準を設けて数値化しました。審査委員会では、若手性の点数が高い者から順に審議しました。若手性をひとつの参照軸にしたものの、従来どおりのポイントで審議されました。つまり、研究の意義、目的、研究手法、研究計画が明確であり、それらの間に整合性や研究実績があるか、それによって一定の期間に学術的な成果論文を完成させられるかという点です。
3.全体講評
残念ながら今回、受賞を逃してしまった研究については以下の点が挙げられます。1つ目は研究の具体性がないことで、どこでどのような研究・調査を実施するのか明示されていないものがありました。2つ目は、学術的な意義が不明瞭な研究計画です。申請書では、先行研究の説明にとどまらず、先行研究と比較した申請者の研究の位置づけを明示する必要がありました。受賞者のなかにも、こうした課題を抱えるものもありました。それでもこうした課題を上回るテーマの重要性や、対象が具体的で問いが明確であることが受賞者を選定する決め手となりました。再申請者の申請について、一定の評価を得た研究計画もありましたが、新規申請者を優先することになりました。
またこれまでは成果を出せる能力が「すでに備わっていること」を重視した傾向にありましたが、今回は若手性も考慮して、研究キャリアが途上にある者も、研究の視点や重要性、実現可能性を考慮して選出しました。
受賞者と受賞理由(50音順)
安齋 寿美玲 ANZAI, Sumire
京都大学大学院医学研究科 修士課程
(助産学・母子保健・母性看護学)
研究テーマ:「在日クルド人難民における母子保健医療ニーズの実態」
受賞理由
保健師として母子保健行政に携わっていたという申請者の実務経験に裏打ちされた研究である。またすでに研究対象の協力者からも内諾を得られており、調査・研究の実現可能性が高い。保健衛生にかかわる分野の研究は、重要であるにもかかわらず他と比べて特に日本では少ないという点でも評価された。
小林 綾子 KOBAYASHI, Ayako
上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科 特任助教
(国際政治学、国際機構論、紛争・平和研究)
研究テーマ:「冷戦期における UNHCR の「国内難民」への対応と課題」
受賞理由
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が組織としていかに国内避難民に対応しようとしたのかをアーカイブ・リサーチをもとに明らかにする研究であり、研究計画はオーソドックスで手堅くまとめられている。いまなお支援が不十分で困難な状況にある国内避難民に対して、UNHCRがいかに取り組もうとしたのか、またその課題を文書をもとに歴史的に検証することで、ともすればブラックボックスになりかねない側面を明らかにしうる点を評価した。
島本 奈央 SHIMAMOTO, Nao
大阪大学大学院国際公共政策研究科 博士後期課程
(国際公法、紛争研究)
研究テーマ:「イスラエルの集団的懲罰体制によるパレスチナ難民帰還の妨げー家屋破壊を事例とした法的メカニズムの解明ー」
受賞理由
イスラエル政府によるパレスチナ人に対する人権侵害と構造的暴力について、家屋破壊が生じるメカニズムを明らかにする研究である。これを合法化する連座制というイスラエルの法体系を対象として、イスラエルの国内裁判所の判例に加え、これに対する訴訟戦略をもとに探究する研究であり、テーマと明らかにすべき問いが明確である。これまでの研究をもとに一定の成果を出すことも期待できる。
洪 里奈 HONG, Rina
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科 博士後期課程
(文化人類学、朝鮮半島地域研究)
研究テーマ:「「日本居住北朝鮮亡命者(脱北者)」の人口統計および日本での処遇に関する研究」
受賞理由
これまで不可視化されてきた北朝鮮亡命者(脱北者)を可視化すべく基礎データを収集する点を評価した。日本の移民政策や難民政策を考えるうえで特殊でありつつも、重要な位置づけを占める対象である。対象者が高齢化していることからも、現時点で記録することの重要性も確認された。狭義の難民を対象とするものではなく、難民の捉え方、難民のまなざしを再考する点に意義があると評価した。
以上