第1回「若手難民研究者奨励賞」の選考過程(全体講評)を以下のように報告いたします。
選考経過報告(講評)
選考委員長 明治大学教授 中村義幸
【応募状況について】
第1回の実施となる今回の若手難民研究者奨励事業だったが、予想を上回る10件の応募があった。また、応募は全国から、また海外からも出され、また専門・研究対象なども大変多岐に富んでいた。このような幅広い応募があったことは、日本における難民研究の明るい未来が垣間見えるものであった。
一方で、多くの優秀な研究計画が提出されたことにより、受賞者の選定に予想以上の時間がかかり、受賞者の最終決定が1か月近く遅延することとなった。応募者の皆様にはお詫びを申し上げる。
申請者の所属は、主に大学院博士課程所属の大学院生だったが、大学院修了者、修士課程生、非常勤講師の方もいた。所属大学は、東京の大学から6名、京都の大学から2名、東北の大学から1名、海外在住者が1名だった。申請者の専攻は申請者間で重複がないほど多岐にわたり、文化人類学、国際人権法、国際政治、社会学、開発、地域研究、人道支援から、農学、美術、日本語教育までと実に幅広く、それに伴い、研究対象や研究テーマも多岐にわたっていた。
【選考過程について】
選考に当たっては、研究分野が異なる6名の選考委員を選定し、選考委員会を数回開催した。選考は、提出された申請書類および参考資料の内容をもとに、まず各審査委員が各申請者を【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】の5つの選考基準項目ごとに点数とコメントをつけた。次に、選考委員会において、各選考委員の得点を合計し、点数の高い上位者について、各審査委員からのコメントを踏まえながらさらに審議をすすめた。
【受賞者の決定について】
選考委員会での審議の結果、総得点が高く、また審査委員から総合的に高い評価を受けた4組(5名)を、今回の受賞者と認定した。
受賞者の決定に際しては、本事業の資金提供元である宗教法人真如苑より、優秀な若手研究者を一人でも多く支援したいという意向を受け、当初事務局が想定していた以上の受賞者数と奨励金を追加で準備していただいた。
【講評】
申請があった10点の研究計画は、独創的で興味深いテーマが多かったものの、研究の意義、目的、研究手法のすべてがはっきりしているもの、それらの間に整合性があるもの、それによって来年4月末までに学術的な成果論文を完成させられると期待できる申請書は、限られていた。特に、若手研究者の奨励という本事業の趣旨にかんがみ、テーマが「学術的研究」として成立しうるのか、学術的な研究手法を理解しているのか、(つまり、「研究成果が単なる報告書で終わってしまわないか」)に対しては、各審査委員からは厳しい評価が出された。
4名の受賞者は、先行研究を踏まえての独自の分析視覚、明確な研究意義と目的、学術的分析・調査への理解などが総じて高く評価され、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるものと評価され、受賞に至った。
以上。
【第1回若手難民研究者奨励賞 授賞者】(50音順)
・加藤 雄大 (かとう ゆうた)
東北大学 法学研究科 博士課程
「ノンルフルマンの『例外』をめぐる国際法の理論」
・須永 修枝 (すなが のぶえ)
東京大学 総合文化研究科 博士課程
「難民と民主化:ソマリ難民によるソマリランド選挙時の政治的行動の分析から」
・瀬戸 徐 映里奈 (せと そ えりな)、野上 恵美 (のがみ えみ)
京都大学 農学研究科 博士課程、神戸大学 国際文化学研究科 博士課程
「就労現場におけるベトナム難民の生活実践と関係形成に関する研究:神戸市長田区、姫路市を事例として」
・三浦 純子 (みうら じゅんこ)
東京大学 総合文化研究科 博士課程/難民移民ドキュメンテーションセンター
「日本の移民受け入れと社会統合:第三国定住の本格始動に向けた人類学的考察ー難民の行き先が日本になる時ー」
※なお、受賞者による研究成果報告が、6月7日10:00~12:00、真如苑友心院ビルにおいて行われました。
※受賞者の成果論文・報告は、『難民研究ジャーナル』4号に掲載されています。
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