下記の研究会では、シリア難民の帰属に着目し考察しました。
開催日:2024年6月10日(月)ウェビナー
報告者:望月 葵(専門:難民研究、中東地域研究、国際政治学)
主な業績に、『グローバル課題としての難民再定住 : 異国にわたったシリア難民の帰属と生存基盤から考える』ナカニシヤ出版、2023年(単著)など。
2011年に始まったシリア内戦以降、数多くのシリア人が国外避難を余儀なくされました。この大規模な人の移動は「難民危機」として注目を集めました。
20世紀以降、国民国家体制が世界中に広まり、国籍国への帰属が前提の社会が構築される中、難民は帰属先である国に住むことができない例外状態に置かれています。そうした中で、かれらはどのようにホスト(庇護国)社会で自身の帰属と向き合いながら生活しているのでしょうか。
今回の報告ではヨルダン、ドイツ、スウェーデンの3カ国で行ったシリア難民に対する調査をもとに、かれらの文化的、宗教的帰属に着目してご報告いただきました。
望月氏の報告によれば、アラブ社会であるヨルダンは、文化、宗教、言語の面においてシリア社会と共通点が多いため、「イスラーム」や「アラブ人」という国家とは異なる共同体の一員として受け入れられたり、支援を受けられることがあります。一方で、難民条約に加入していないヨルダンにおいては、シリア人の法的帰属は不安定であり、そのために様々な権利が付与されていない状況があります。
対して、ヨーロッパ社会であるドイツやスウェーデンでは、難民条約をはじめとする人権諸条約を根拠に、シリア難民は安定した法的地位を得ることが可能です。排外主義の高まりとともに、政府が制限的な政策に移行する中においても、法的に付与される権利や市民社会の連帯に基づく支援が提供されています。他方で、文化、宗教、言語などあらゆる面が異なる社会においては、かれらの他者性が強調される側面があります。ドイツやスウェーデンにおいても、文化的、宗教的帰属に基づく支援は展開されているものの、多くのシリア難民にとって重要なイスラーム的な規範が広く浸透しているわけではないため、難民はホスト社会に統合することを強く求められます。
それぞれの社会で、国家の枠組みの中で実施される支援や国際機関による支援は、故郷を追われた人が生活を再建する中において十分であるとは言えません。法的な立場の脆弱性などにより就労の機会が乏しいなど、生活を送る上でのいくつもの困難に直面しています。しかし、文化、宗教的な連帯がこれを補う形で機能していることがわかっています。
また望月氏は、調査の中で見えてきたものとして、支援を受ける側であるシリア難民も、難民であること、ムスリムであることなど、かれら自身の帰属を支援を受けることの正当性を主張するためのツールとして、かれら自身が時に使い分けながら戦略的に利用している側面があると指摘します。
「難民の帰属の流動性は、脆弱な部分を含んでいる一方で、セルフブランディングのようにかれらの自立した生存を支える、ある種の戦略として用いられているのではないか。」
ーー望月葵氏(報告書より抜粋)
さらにこうした難民の帰属意識は世代間で隔たりがあり、それぞれの社会の中で時間の経過とともにどのように変容していくのかについて、今後改めて注視していく必要性にも触れ、報告が締め括られました。
報告書は以下をご覧ください。
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