研究会「難民認定審査における信憑性評価」報告

研究会

テーマ:「難民認定審査における信憑性評価」
報告者:
・ヒラリー・エヴァンス・キャメロン (Hilary Evans Cameron)/トロント州立大学
・渡邉彰悟/弁護士
開催日:2023年2月7日(火)、ウェビナー

難民法においては、どちらがより悪い間違いだろうか? すなわち、「保護が認められるはずの申請者を誤って拒否する(不認定にする)こと」と、 「保護が認められないはずの申請者を誤って保護すること」では、どちらがより悪いだろうか?

ヒラリー・エヴァンス・キャメロン氏(報告書より抜粋)

難民認定における信憑性評価は、難民申請者が条約に基づく難民か否かを判断する重要な要素の一つです。信憑性評価が適切に行われない場合、難民として保護されるべき人を誤って不認定とし、迫害や深刻な人権侵害を受けるおそれのある国に送還してしまう危険性があります。

本研究会では、「難民認定審査においてどのように信憑性を評価するべきなのか」、「誤った判断を防ぐにはどうすればよいのか」について、研究者や支援者、参与員の垣根を超えて、それぞれの専門的な知見や経験が共有され、活発な議論が行われました。

本研究会にはスピーカーとして、弁護士の渡邉彰悟氏とトロント州立大学のヒラリー・エヴァンス・キャメロン氏をお招きしました。

長年、難民認定実務に関わる渡邉氏からは、日本の難民認定実務における信憑性評価の現状について、『難民勝訴判決20選』の分析やご自身が弁護士としてかかわった事案をもとに解説と問題点の指摘がなされました。

信憑性評価に関する多数の研究業績があるキャメロン氏からは、まずは国際法の視点から、難民認定審査における事実認定については「難民申請者に有利になるように疑問を解決する(判断する)ことが、国際的難民法の基礎となる規範的原則である」ことが示されました。また、この原則に基づいて難民認定審査を行うための具体的なポイントとして、カナダの難民法の礎である「信憑性の推定」、カナダの裁判所や移民・難民委員会(Immigration and Refugee Board(IRB))が示している指針や注意点などを、実際のカナダの裁判で下された判決を引用しながらご解説いただきました。
加えて、キャメロン氏ご自身の研究成果である「事実認定において審査委員が陥りやすい誤解やバイアス」に関して、認知心理学をはじめとする豊富な先行研究を踏まえて、ご報告いただきました。本来は曖昧で流動的である人間の記憶に関する誤解から、「記憶力テスト」によって信憑性を判断してしまうことのリスクが研究によって指摘されています。

質疑応答では、カナダと日本の難民認定実務に大きな乖離がある現状を踏まえて、この状況を改善していくための議論が行われました。また、関連してカナダにおける出身国情報の収集・分析や脆弱な立場にある人のニーズに合わせた審査など実務的な質問があり、キャメロン氏と渡邉氏のそれぞれの視点からお答えいただきました。

報告書と発表資料は、以下よりご覧ください。

◉報告書

◉発表資料

  • 渡邉氏発表資料 ▷ 資料①
  • 渡邉氏参考資料 ▷ 資料②
  • キャメロン氏発表資料(日本語) ▷ 資料③
  • キャメロン氏発表資料(英語)  ▷ 資料④

キャメロン氏プロフィール
Toronto Metropolitan University, Lincoln Alexander School of Law (Assistant Professor)、元弁護士
主な業績に“Artificial Intelligence for a Reduction of False Denials in Refugee Claims” Journal of Refugee Studies, Vol 35 (1), 2022(共著)
Refugee Law’s Fact-Finding Crisis: Truth, Risk, and the Wrong Mistake, Cambridge University Press, 2018、
Experimenting with Credibility in Refugee Adjudication: GaydarCanadian Journal of Human Rights, 2020(共著)
Refugee Status Determination and the Limits of Memory”, International Journal of Refugee Law, vol 22, 2010など。

◆難民研究フォーラムメンバーについて
本研究会は、基本的にメンバーを対象にして、年3~4回程度開催しております。
メンバーへのご関心のある方は、こちらよりご覧ください。

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