難民申請者のチャーター機送還に関する東京高裁違憲判決概要 – 裁判を受ける権利の保障に向けて

資料集

 

難民不認定処分に対する異議申立ての棄却告知の翌日に行われたチャーター機による送還(2014年12月)について、2021年9月、東京高裁は、裁判を受ける機会(憲法32条)などの侵害であり「違憲」と判断しました。原告側も国側も上告を行うことなく、判決は確定しています。

本判決の概要をまとめた「なんみんフォーラム」作成の概要資料を掲載します。

2014年12月のチャーター機送還については、2021年1月の名古屋高裁判決においても、司法審査を受ける機会が実質的に奪われたため「違法」と判断され、確定しています。また、東京高裁の判決では、濫用的な難民申請が行われたとの国側の主張に対して、「当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべき」としています。 現行の入管法には、行政による難民不認定処分に対する出訴期間中や訴訟係属中の送還を停止する規定が含まれていません。チャーター機送還に関する一連の判決は、UNHCRが求める、すべての庇護希望者に対する「効果的な救済措置(※)」の必要性を改めて強調するものであり、判決の趣旨に則った制度・運用の見直しが求められます。

※UNHCR「第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(専門部会)の提言に基づき第204回国会(2021年)に提出された出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に関するUNHCRの見解」[https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2021/04/20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.pdf]8頁など。

【参考】

  • 収容問題を多数手がける児玉晃一弁護士による解説
    「難民申請中の送還停止の例外規定を封じた東京高裁判決~入管法改定案再提出は無理筋 入管法改定案に「送還停止効例外規定」が盛り込まれれば東京高裁判決に違反」https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021121500006.html

 

難民申請者のチャーター機送還に関する東京高裁違憲判決概要 
‐ 裁判を受ける権利の保障に向けて

2021年12月
なんみんフォーラム(FRJ)事務局作成

※PDFはこちら

2014年12月、南アジアの同国出身の2名(Bさん・Cさん)は、難民不認定処分に対する異議申立の棄却決定の告知翌日にチャーター機によって送還された。2名はこれをを不当として提訴。一審の東京地裁は原告の訴えを棄却したのに対し、2021年9月、東京高裁は国側の措置を「違憲」として国側に1名あたり30万円の慰謝料及び遅延損害金の支払いを命じ、いかなる難民申請者についても裁判を受ける機会を実質的に奪ってはならないとした。その後、本判決は確定。こうしたチャーター機による集団送還は2013年から実施されており、2018年までに、難民申請をしていた者を含む計461名が送還されている。また同時期の同様の内容の訴訟について、2021年1月、名古屋高裁は違憲とはしなかったが、裁判を行う機会が実質的に奪われたことを認め、入管職員の注意義務違反から「違法」として国に賠償を命じている。

事実関係

  • Bさん・Cさんは、不法残留により退去強制令書(退令)が発付されるが、難民不認定処分への異議を申立てていた。仮放免許可を受けており、同異議申立棄却決定から告知にいたる間にも入管へ出頭していた。
  • 2014年12月17日、2名はそれぞれ難民不認定処分への異議申立棄却を告知され、再収容となり羽田空港へ護送された。翌18日にチャーター機で送還された。同棄却決定は告知から40日から47日前に行われていた。
  • 同棄却決定告知時の状況について、Bさんは提訴の意思を何度も入管職員に訴えたが、弁護士に架電する機会は約30分の間に5度であった。Cさんは入管職員へ提訴の意思を訴えたが、「6ヶ月間裁判できますという意味であって、入管がその間送還しません、裁判を待ちますという意味ではありません」と告げられた。
  • 同異議申立棄却決定前の2014年10月23日の時点で、2名は2014年度チャータ機送還(集団送還)の対象者とされ、同年11月5日には同年12月18日から同月19日の間に送還することが計画されていた。

2021年9月 東京高等裁判所判決概要

憲法違反について
裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害し、適正手続の保障(憲法31条)及びこれと結びついた憲法13条に反しており、入管職員の職務上の法的義務(国賠法1条1項)に違反したと判断した。

  • 裁判を受ける権利にかかる判断:出入国管理及び難民認定法(入管法)は被退去強制者を速やかに送還するよう定め、難民不認定処分への異議申立棄却決定後の出訴期間(告知から6ヶ月間)に送還を停止すべき規定はない。一方、行政事件訴訟法は異議申立棄却後の提訴を認め、46条の「教示制度」は適切に情報提供をし、司法審査を受ける機会を実効的に保障する趣旨から設けられており、実際に当局は12月17日の告知時に教示書を2名に交付している。また、難民異議申立事務取扱要領は、異議申立棄却決定など結果が定まったときは速やかにこれを通知するよう定めており、訴訟提起又は帰国などの判断を行う時間の確保への配慮と解される。以上の法令等の規定や趣旨からすれば、実質的に司法審査を奪うような結果は許されない。
  • 手続の適正性にかかる判断:事務手続に一定の時間がかかるとしても、難民異議申立事務取扱要領は裁決後の速やかな通知を定めている。2名の出頭時に告知できたことや、2014年度チャータ機送還(集団送還)の対象者としていた事実から、当局が意図的に告知を送還直前まで遅らせたと評価せざるを得ない。また、送還直前に異議申立棄却決定を一斉に告知することについて、逃亡の可能性は集団送還に関わらず想定し得るものであり、代理人から申出があれば送還予定時期の概ね2ヶ月前に代理人へ通知する制度があることから、妨害や逃亡の阻止といった目的があるとしても合理性がない。

難民申請の濫用と裁判を受ける権利について
国側が2名の異議申立が濫用的なもので救済性に乏しいと主張したのに対し、難民該当性の問題と司法審査を受ける機会の保障は別の問題であり、当該難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべきことで、司法審査の機会を実質的に奪うことは許容されないとした。

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