「名古屋チャーター便送還事件」の概要

資料集

難民申請者が、異議申立棄却通知の直後にチャーター機で送還された事案(2014年)について、司法審査を受ける機会が実質的に奪われたため「違法」との判決が2021年に名古屋高裁で出ました。原告側も国側も上告せず、判決は確定しています。
チャーター便による強制送還や、難民申請手続における異議申立棄却直後の強制送還は複数報じられており1、本判決は、日本の退去強制手続や難民認定手続の課題を考える上で、重要と考えられます。
なんみんフォーラム」作成の概要資料を掲載します。

【参考】

【参考】

  • チャーター便送還に関する東京高裁の判決(2021年9月)の概要を掲載しました
https://refugeestudies.jp/2021/12/deportation-tokyo-highcourt/

名古屋チャーター便送還事件概要 
‐ 送還停止効の例外規定導入にかかる懸念

2021年4月
なんみんフォーラム(FRJ)事務局作成

※PDFはこちら

2014年12月、名古屋入管が南アジア出身の難民申請者Aさんを収容。その2日後に難民不認定処分への異議申し立て棄却の通知を行い、その翌日にチャーター機で送還。Aさんはこれを不当として、国に330万円の損害賠償を求めて提訴。2021年1月、名古屋高裁は、異議申立棄却決定の告知を送還の直前までわざと遅らせ、弁護士と連絡を取る間も与えずに送還した行為は、難民として裁判を行う機会を実質的に奪ったため「違法」と判断した。賠償額については、国に8万8千円の支払いを命じた一審名古屋地裁判決を変更し、44万に増額。

Aさん送還までの時系列

2010年6月不法残留のため名古屋入管から退去強制令書が発布され、強制退去を命じられる(その後、Aさんは「国に戻れば政治的迫害のおそれがある」として、難民認定を申請)
2014年6月難民不認定処分を受ける(その後、Aさんは同処分へ異議申立)
2014年11月法務大臣による異議申立棄却決定
2014年12月Aさんは収容され、その2日後に異議申立棄却決定について告知を受ける(法務大臣の決定から1ヶ月後)。この告知の翌日、Aさんはチャーター機(国費の集団送還・本人への事前告知なしの運用)で出身国へ送還された。送還より前、Aさんは「裁判を起こしたい」という意向を示していた。

判決概要

一審:名古屋地方裁判所(2019年7月)

  • 「裁判を受ける権利は侵害されてない」と訴えを退ける。
    • 理由:異議申立についての決定があるまで送還を停止すること以外に規定がなく(現行法61条の2の6第3項)、この規定に該当しなければ、入管職員には送還を停止する義務がない。
  • 一方、8万8千円の賠償金の支払いを国に命じる。
    • 理由:名古屋入管(現・名古屋出入国在留管理局)の職員が「送還後も訴訟ができる」と虚偽の説明をした。

●二審:名古屋高等裁判所 萩本修裁判⻑(2021年1月)

  • 1審よりも賠償額を増やし、国に44万円の賠償を命じる。
    • 理由:入管当局は送還前日まで異議申立棄却決定を告知せず、Aさんの司法審査を受ける機会を実質的に奪った。告知が遅れた合理的理由がない。職務上尽くすべき注意義務に違反しており、国賠法1条1項の適用上違法。当局の虚偽説明は、上記評価に包含される。よって、Aさんの精神的苦痛に対する慰謝料は40万とするのが相当(弁護士費用1割と合わせて44万円)。
  • 1審と同様、「憲法上の裁判を受ける権利は侵害されてない」という判断は継続。
    • 理由:訴訟がなされれば送還を見合わせる運用がなされているのだから、Aさんは難民不認定処分への異議申し立ての決定前でも同処分への不服申し立てとして、訴訟提起が可能だった。また、退去強制令書発付処分等に対する提起と合わせた申立に基づく裁判所の退去強制令書の執行停止も可能だった。よって、憲法上の裁判を受ける権利を侵害したものとはいえないが、司法審査を受ける機会を実質的に奪った。

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  1. 関東弁護士連合会「被送還者の人権と尊厳を無視した強制送還実施に反対する意見書」(2015年)http://www.kanto-ba.org/declaration/detail/h27op6.html[]
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