難民研究フォーラムでは下記の研究会を開催しました。
「難民該当性判断の手引」:国際難民法と実務の視点から
報告者:阿部浩己(国際法、国際人権・難民法、平和研究/明治学院大学国際学部教授)
開催日:2023年4月14日(金)、ウェビナー
2023年3月24日、出入国在留管理庁(入管庁)は、『難民該当性判断の手引』を公開しました。「難民認定制度に関する専門部会」による2014年12月の提言(難民該当性に関する判断の規範的要素を可能な限り一般化・明確化することを追求すべき)を受けて、8年の歳月を経て策定されたものです。
手続きの公平性・透明性の課題が繰り返し指摘されてきた中、難民該当性判断の規範的要素を示す手引が作成されたことを歓迎する声がある一方、国際基準に則った内容とは言い難い点があり、裁量的な判断が可能な記述が散見されるため、課題や懸念点を指摘する声も挙がっています(※1)。加えて、公表当日の記者会見において、法務大臣は、本手引が他国と比較して著しく低い日本の難民認定率の増加につながる可能性を問われた際に、「条約難民の範囲が広がるものではない」などと、保護の拡大を否定するような発信をしています(※2)。そのため、本手引が日本の難民認定状況の改善に資するかどうかは現時点では不透明です。
本研究会では、国際人権・難民法の専門家で、昨年まで10年にわたって難民審査参与員も務めていた阿部浩己氏をお招きし、国際人権法や国際難民保護レジームからの視点を、難民認定審査に関わってきたご経験も踏まえて、お話しいただきました。
阿部氏は、本手引を分析・考察し、本手引が示されたことや一部の記述に関しては一定の評価をしつつも、課題として「国際標準を満たさぬ記述箇所」がある点、「国際人権法への言及を意識的に回避」した点があると指摘しました。
また、仮に手引が課題を含みつつ、日本の難民認定実務を国際水準に近づけるための足がかりになるものだとしても、条約の趣旨に沿って難民を保護していくためには、本手引の策定だけでは不十分であるとし、喫緊に取り組むべき重要なポイントを示しました。具体的には、「供述の信憑性をどう評価するのかについての適切な指針」、「必要な出身国情報の確保」、「判断過程に関わるすべての者に対する継続的な研修」などが求められると述べています。質疑応答では、手引の評価・分析についてや、現行制度の制約の中でどのように難民の保護を拡大していけるか、などの質問が寄せられました。
(※1)例えば、全国難民弁護団連絡会議「出入国在留管理庁による『難民該当性判断の手引き』の問題点を指摘し引き続き政府入管法案への反対を呼び掛ける声明」
(※2)法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要」
◆難民研究フォーラムメンバーについて
本研究会は、基本的にメンバーを対象にして、年3~4回程度開催しております。
メンバーへのご関心のある方は、こちらよりご覧ください。
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