※PDFはこちら
難民申請者に対する各国政府による生活支援の仕組みをまとめました。
リサーチ対象国は、オーストラリア、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、スウェーデン、イギリスです。
難民申請者が新たな国での生活をスタートさせるにあたり、安定した住居や生活の基盤を整えるための支援制度があることが重要です。今回は、生活支援の仕組みのうち、生活費や住居に関する支援の状況をまとめました。難民申請者の大半が公的支援にアクセスできている国がある一方で、難民申請者のうちごく限られた人しか、支援にアクセスできていない国があることも確認できました。安定的な支援を行うにあたり、法的根拠の有無が重要な要素であることもうかがえます。
なお、カナダやニュージーランドでは、難民申請者に特化した支援の枠組みではなく、生活困窮者向けの社会保障やシェルターへのアクセスが可能となっています1。重要なのは、すべての人が、在留資格の有無にかかわらず有している、健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利をいかに保障するか、という視点です。難民申請者が、貧困状態に陥ったり、ホームレス状態となることがないための法制度を整備し、確実に運用することが重要です。
【関連する人権規範や国際的な枠組み】
- 世界人権宣言25条1項「すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準(a standard of living adequate for the health and well-being)を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する」
- 社会権規約11条1項「この規約の締約国は、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居(adequate food, clothing and housing)を内容とする(including)相当な生活水準(an adequate standard of living)についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める。締約国は、この権利の実現を確保するために適当な措置をとり、このためには、自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める」
- ニューヨーク宣言(New York Declaration for Refugees and Migrants, UN doc A/RES/71/1, 3 October 2016)para.5 “We reaffirm the purposes and principles of the Charter of the United Nations. We reaffirm also the Universal Declaration of Human Rights and recall the core international human rights treaties. We reaffirm and will fully protect the human rights of all refugees and migrants, regardless of status; all are rights holders. Our response will demonstrate full respect for international law and international human rights law and, where applicable, international refugee law and international humanitarian law.”
※なお、EU加盟国の場合は、「処遇指令」(国際的保護の申請者の処遇のための基準を定める2013年6月26日付けの欧州議会及び理事会指令2013/33/EU(改))において、庇護希望者の処遇に関する加盟国共通の最低基準が定められている。各国の制度に差はあるものの、指令が定める基準を満たす若しくは上回る支援を実施することが、加盟国に求められている。詳しくは、文末記載の関連条文を参照のこと。
【各国における支援の枠組み】(年末時点難民申請者数は、UNHCR Refugee Data Finder による)
▼オーストラリア(参考:2022年末時点難民申請者数 9万549人)
制度名称 | Status Resolution Support Services (SRSS) |
担当機関 | Department of Home Affairs |
根拠法 | 無し |
生活費 受給者数 | 1,517人(2023年8月末時点のSRSS対象者数) ・支給額は、失業者を対象とした手当(Jobseeker Payment. 単身世帯の場合、374.60AUD/週)の89%とされている。 ・住居については、非正規滞在者(コミュニティ収容)の場合は、政府提供の施設に入居する。正規滞在者についても、一部自己負担で政府提供の施設を利用することができる。民間施設に居住する場合は、通常の生活保障での受給額の89%を、家賃補助として受給することができる。 ・2018年の受給者数は約1.2万人。2018年の対象者の変更やそれ以降の予算削減により、受給者数が年々減少している。 |
出典 | ABC News “Asylum seekers left living in poverty as government payments dry up”, Australian Government “JobSeeker Payment”, Refugee Council of Australia “Status Resolution Support Services (SRSS)” |
▼フランス(参考:2022年末時点難民申請者数 14万2,940人)
制度名称 | Asylum Seeker’s Allowance(ADA) |
担当機関 | Office Français de l’Immigration et de l’Intégration (OFII, French Office for Immigration and Integration) |
根拠法 | Code de l’entrée et du séjour des étrangers et du droit d’asile (Code of Entry and Residence of Foreigners and of the Right to Asylum) |
生活費 受給者数 | 11万1,901人(2021年末時点のADA受給者数) ・家族構成、収入、居住する住居の種類に応じて支給額が決定される。 ・単身世帯に対する給付額は€6.80/日。世帯人数が1人増えるごとに€3.40/日が加算される。なお、政府提供の住居での食事の提供はない。 ・政府による住居提供を受けていない場合は、€7.40/日が加算される。 |
住居 提供者数 | 10万2,192人 (2022年末時点。通常の処遇施設と緊急宿泊施設の利用者数の合計) |
出典 | AIDA “Country Report: France 2022 Update” |
▼ドイツ(参考:2022年末時点難民申請者数 26万1,019人)
制度名称 | Benefits under the Asylum Seekers’ Benefits Act |
担当機関 | Bundesamt für Migration und Flüchtlinge (BAMF, Federal Office for Migration and Refugees) |
根拠法 | Asylbewerberleistungs-gesetz (Asylum Seekers’ Benefits Act) |
生活費 受給者数 | 約39万9,000人(2021年末時点) ・難民申請の結果が出るまで、原則として州政府が運営する施設への滞在が義務付けられている。食事付きの施設に滞在する場合は€150/月、食事無しの施設滞在中は€367/月が支給される(いずれも単身世帯の場合) ・庇護申請者に加えて、空港で上陸が許可されなかった者、上陸審査中の者、国外退去強制を猶予されている者、国外退去強制が執行可能ではない者も受給が可能。そのパートナーや未成年の子も対象となる。 |
住居 提供者数 | 39万8,585人 (2021年末時点。Initial Reception Centre, Shared Accommodation, Decentralized Accommodation への入居者数の合計) |
出典 | AIDA “Country Report: Germany 2022 Update”, Destatis “Press Benefits for asylum seekers, 2021: number of people entitled to benefits up 4.3%”, DW “Immigrants in Germany: Who gets what kind of support?” |
▼アイルランド(参考:2022年末時点難民申請者数 1万5,108人)
制度名称 | Direct Provision |
担当機関 | International Protection Accommodation Service (IPAS) 及び Department of Children, Equality, Disability, Integration and Youth (DCEDIY) |
根拠法 | International Protection Act 2015 |
住居・生活費受給者数 | 1万1,308人(2022年末時点の Direct Provision 入居者数) ・政府提供の施設(食事付き)に入居している場合、大人は€38.80/週、子どもは€29.80/週が支給される。 |
出典 | AIDA “Country Report: Ireland 2022 Update”, Irish Times “More than 9,300 adult asylum seekers get just €5.50 a day” |
▼日本(参考:2022年末時点難民申請者数 1万2,384人)
制度名称 | 難民認定申請者等に対する保護措置 |
担当機関 | 外務省 |
根拠法 | 無し |
生活費 受給者数 | 204人(2022年度) ・生活費1,600円/日(12歳以上)、住居費6万円/月(単身世帯の場合の上限額)が支給される。住居費の代わりに、政府提供の施設(緊急簡易宿泊施設, ESFRA)への入居が認められる場合もある。 |
住居 提供者数 | 25人(2022年度) |
出典 | 2023年6月15日付け石橋通宏議員による質問主意書への政府回答 |
▼スウェーデン(参考:2022年末時点難民申請者数 1万4,469人)
制度名称 | Financial support for asylum seekers |
担当機関 | Migrationsverket (Migration Agency) |
根拠法 | Lagen (1994:137) om mottagande av asylsökande m.fl. (LMA, Reception of Asylum Seekers Act) |
住居及び 生活費 提供者数 | 8,542人(2022年末時点の Migration Agency Accommodation 入居者数) ・政府提供の住居(定員1万4,810人)への入居が可能。支弁能力がない場合は無料で利用することができる。 ・食事ありの施設に入居している場合は24SEK/日、食事なしの施設に入居している場合は71SEK/日が生活費として支給される(単身世帯の場合)。 |
出典 | AIDA “Country Report: Sweden 2022 Update” |
▼イギリス(参考:2022年末時点難民申請者数 16万7,289人)
制度名称 | Section 4, Section 95, Section 98 Support |
担当機関 | Home Office |
根拠法 | Immigration and Asylum Act 1999 |
受給者数 | 10万7,494人(2023年3月末時点で、Section 4, 95, 98 いずれかの支援の対象者として、住居、食事、生活費のいずれか又は複数を受給している人の数) ・Section 98:Section 95 への申請を行った人に、一時的に行われる支援。住居と食事が提供される。 ・Section 95:住居(食事の提供なし)に加えて、£45/週が専用のデビットカードによって支給される。妊娠中の女性や子どもなどへの加算あり。 ・Section 4:難民不認定となった者の一部(渡航困難、訴訟係属中、支援の不実施が人権侵害に相当する場合など)が対象。Section 95 と同額の生活費と住居が提供される。 |
出典 | AIDA “Country Report: United Kingdom 2022 Update”, Refugee Council “Top facts from the latest statistics on refugees and people seeking asylum” |
【参考】
EU処遇指令(国際的保護の申請者の処遇のための基準を定める2013年6月26日付けの欧州議会及び理事会指令2013/33/EU(改))(原文、和訳)
1.前文
(11)申請者に尊厳ある生活水準(dignified standard of living)及び全加盟国において同等な生活状況を確保するために十分な申請者の処遇に関する基準が定められるべきである。
(24)申請者に提供される物質的支援が本指令に定める原則に従うものであることを確保するために、加盟国が関連する参考資料に基づきそのような支援の水準を決めることが必要である。このことは、付与される支援が国民と同じであるべきことを意味するものではない。加盟国は、申請者に対して、本指令で規定される通り、国民よりも不利な取扱いを付与することができる。
(25)処遇制度の乱用の可能性は、すべての申請者に対する尊厳ある生活水準を確保するのと同時に、申請者に対する物質的処遇体制が削減又は撤回され得る状況を明記することにより制限されるべきである。
2.定義(第2条)
(g)「物質的な処遇体制」とは、現物で、又は、財政的手当てとして、又は、無料引換券で、又は、その3つの組み合わせによって提供される住居、食糧及び衣料、並びに、生活費手当てを含む処遇体制をいう。
3.物質的処遇体制及び医療に関する一般的ルール(第17条)
(1)加盟国は、申請者が国際的保護の申請を行った場合、申請者が物質的処遇体制を利用できるよう確保するものとする。
(2)加盟国は、物質的処遇体制が、申請者に対して、必要最低限の生活を保障し、その身体的及び精神的健康を守る十分な生活水準(an adequate standard of living for applicants, which guarantees their subsistence and protects their physical and mental health)を提供するものであるよう確保するものとする。加盟国は、第21条に従って、及び、拘禁されている者の状況との関係において、当該生活水準が脆弱な者の特別な状況において満たされることを確保するものとする。
※ 脆弱な者の特別な状況の例(第21条より):未成年者、保護者のいない未成年者、障害者、高齢者、妊娠中の女性、未成年の子どもを持つ単身の親、人身取引の被害者、重篤な疾患を持つ者、精神疾患を持つ者、及び拷問、強姦又はその他の深刻な形態の心理的、身体的又は性的暴力に晒された者(女性器切除の被害者を含む)
(3)加盟国は、申請者がその健康のために十分な生活水準を持ち、その必要最低限の生活を可能にするために十分な資源を持たないことを物質的処遇体制及び医療の全部又は一部の提供の条件とすることができる。
(4)加盟国は、例えば、申請者が合理的な期間に渡り働いている場合など、申請者が十分な資源を有する場合、申請者に対して、第3項の規定に従って、本指令で規定される物質的処遇体制及び医療の費用を負担又はその一部を負担することを要求することができる。加盟国がそれらの基本的なニーズを負担している時に、申請者が物質的処遇体制及び医療を負担する十分な資力を有することが明らかになった場合、加盟国は、申請者に対して、払い戻しを求めることができる。
(5)加盟国が物質的処遇体制を財政的手当て又は無料引換券の形態で提供する場合、その金額は、関係する加盟国により法律又は実行のいずれかによって国民の十分な生活水準を確保するために確立された水準に基づいて決定されるものとする。加盟国は、この点について、特に、物質的支援が一部現物で支給される場合、又は、国民に適用される水準が本指令の下で申請者について規定される生活水準よりも高い生活水準を確保することを目的としている場合、申請者に国民と比較して不利な取扱いを与えることができる。
- 例えば、カナダ・ケベック州の難民申請者が利用可能な支援メニューについて、以下参照 “Asylum seekers”。生活困窮者向けの支援については、以下参照 “Social Assistance and Social Solidarity”。ブリティッシュコロンビア州については、以下参照 “BC CHARMS Refugee Claimant Navigation Website” “Income assistance”。住居支援について、トロント市の場合、2023/11時点で公営のシェルター(全体の入居者数9,000人強)に3,800人、カナダ赤十字のプログラム等により、1,700人の難民申請者が受け入れられている。1日あたり278人が公営シェルターへの入居を断られていることから、トロント市から連邦政府に緊急シェルター開設の要望書の提出が予定されている。“Toronto to ask federal defence minister to open armouries to shelter refugee claimants”。ニュージーランドについては、以下のサイトより州ごとの相談先を参照可能 “Information for asylum seekers”。[↩]