研究会「ミャンマー難民を手がかりに「民主化」を捉え直す―「三角測量」で問題をあぶり出す―」報告

研究会

開催日:2025年5月20日(火)18:30~20:30 オンライン
報告者:松本 悟(専門:国際開発協力、メコン地域研究、影響評価研究 / 法政大学 教授)

博士(国際協力学)。NHK記者、JVCラオス事務所代表、メコン・ウォッチ代表理事などを経て2016年より現職。著書に『国際協力と想像力 イメージと「現場」のせめぎ合い』(日本評論社)、『調査と権力:世界銀行と「調査の失敗」』(東京大学出版会)など。タイ・ミャンマー国境の難民キャンプでのフィールドスクール、難民に関心を持つゼミ生への卒論指導等、教育としての難民研究に関心を持っている。

「本調査から言えるのは、軍政から民政への移管は、軍政時代の問題が完全に解消されたことを意味しないという点に集約できる。難民認定の審査にあたる人たちも、民政移管された国への開発協力を行う組織も、この点は肝に銘じておく必要がある。特にミャンマーの場合は、低地ビルマ族と少数民族の間には長年の対立があり、同時に少数民族武装勢力の中にも異なる考えを持ったグループがいる。こうした根の深い問題を脇に置いたまま、一般的な情勢の変化だけで民主化を楽観的に捉えてしまうことを繰り返さないことである。そのためには、10年間の民主化時代のミャンマー難民の審査やミャンマー向けのODAについて、今から日本国内で開かれた議論を始めることが重要である。再び民主化が進み始めてからでは遅い。楽観論に支配されて慎重な検討ができなくなる。空爆を受け、国内避難民となったミャンマーの人たちのために今やらなければならないことに比べれば優先度は低いのかもしれないが、10年間の振り返りは必ず将来に貴重な学びを提供するはずである。本稿が、そのための小さな一歩になることを願っている。」
(松本悟「ミャンマーの「民主化」を捉え直す―日本でほとんど認定されなかったミャンマー難民を手がかりに―」『難民研究ジャーナル』第14号、2025年、49~50頁。)

『難民研究ジャーナル』第14号で特集「難民と政治ーミャンマーの民主化とクーデター、マイノリティ」を企画した背景には、2011年の民政移管を契機に日本におけるミャンマー出身者の難民認定と人道配慮が顕著に減少し、2017年以降は少数民族を含めて一人も難民認定されない時代が2021年の軍事クーデター発生まで続いたことにあります(詳細は、「企画趣旨」7~11頁参照)。民主化と呼ばれる時代であっても、ミャンマー国内では少数民族の暮らす地域を中心に、深刻な人権侵害の発生が報告されていました。こうした当時のミャンマーの出身国情報(COI)を踏まえると、日本の難民認定審査の適正性には疑問を持たざるを得ません。難民支援に携わる弁護士や支援団体からは、日本の難民認定審査に対して、「(少なくとも表面上)民主的手続きに沿った選挙が実施されると、その国で難民が生まれる事情がなくなったと評価する傾向があるのではないか」との批判の声があります。こうした現場の経験値に基づく批判は傾聴に値するものではありますが、一方で実証されておらず、難民認定審査に携わる入管職員や難民認定審査参与員の考えを明らかにすることは容易ではありません。ミャンマーの難民認定にかかわらず、難民認定審査にあたる人々、ひいては日本政府のある国の人権状況に対する認識は、難民認定審査の結果に直接的に影響を及ぼす重大なものですが、学術的に分析することには様々な困難が伴います。

今回の研究会では、報告者の松本悟さんが難民研究フォーラムから論文執筆の依頼を受けて、この困難な問いに取り組むことを決めた理由、研究方法の選択、直面した課題や乗り越えるための工夫など、執筆依頼のための打ち合わせから論文を完成させるまでのプロセスについて、悩みや葛藤も含めて赤裸々にご報告いただきました。

研究会のタイトルでもある「三角測量(トライアンギュレーション)」は、難民認定審査に関する一次資料が入手困難ななかで、「複数の異なるアプローチから得られた結果を統合することで因果推論を強化する手法」に着目し、「結果的に取り組んだ研究方法」だと言います。松本さんの調査では、①裁判所(難民支援にかかわる弁護士から提供を受けた裁判資料や弁護士へのインタビュー調査)、②タイ・ミャンマー国境(指導するゼミの現地フィールドワーク論文、少数民族を支援する活動家へのインタビュー)、③霞が関(2012~2013年当時の外務省・財務省・在日ミャンマー人・NGOの対話メモ、要望書)という3つの「場」を設定し、この3つを組み合わせることで、「民主化時代のミャンマー難民認定が日本で極端に少なかったことが何を意味するのか」、「『次の』民主化への学び」の抽出を試みています。

特に、「③霞が関(中央省庁)」という場への着目は、既存の難民研究と異なる視点です。日本の難民研究においては注目されてなかった対ミャンマーODAの再開に関する議論に着目しており、難民認定審査に関わる一次資料の入手・利用が極めて困難な中で、どのように日本政府の認識を分析することができるのか?という疑問に一つの可能性を示してくれています。「視点を変えない限り繋がらない」情報を、視点を変えて繋げていくことで、単独の「場」からは見えてこなかった分析を可能にする松本論文の手法は、学問分野や研究テーマを越えて学ぶべきものではないでしょうか。

研究会の参加者からは、今回の調査で用いた「三角測量」で用いた三点の妥当性(他にも検討すべき「場」があるのではないか)など、今後の更なる手法の発展に繋がるフィードバックもあり、難民に直接インタビューをするなど、一次情報を収集する以外に実現可能なFor Refugeesの難民研究の可能性を広げる貴重な機会になりました。

ぜひ、その他の特集論文・報告と合わせて、松本さんの「ミャンマーの「民主化」を捉え直す―日本でほとんど認定されなかったミャンマー難民を手がかりに―」をご一読ください。

難民研究ジャーナル14号の表紙画像

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