[事例集]送還された難民・難民申請者とその後

⑧ P.N(27歳)、レズビアン女性、2010年1

 P.Nは2010年にイギリスを訪れ、ビザの期限を超えて滞在し、就労していた。オーバーステイ発覚後、収容された。同性愛者への迫害が常態化しているウガンダに帰国した場合「叔父に殺される可能性がある」ことへの恐れから難民申請をしたが不認定となり、その後送還された。P.Nが難民申請をした時点において、イギリスでは2005年にブレア政権時に導入された迅速処理システムが実施されており、難民申請者に対して証拠を収集するために与えられた時間はわずか14日間であった。そのため、P.Nは、自身がウガンダでもイギリスでも同性愛者のパートナーがいた事実、彼女の抱えるPTSD症状、同性愛の性的指向を認めた医師の診断書などを提出することができなかった。この迅速処理制度は2015年に裁判において「不平等である」とされ、廃止されたが、その間10,000人を超える難民申請者が迅速処理の結果、不認定となり送還された。この「不平等な」制度化で送還された人に対して、裁判所に訴える権利が認められ、ウガンダで自らのセクシャリティを隠しながら生活していたP.Nは2015年に提訴した。P.Nは迅速処理によって不当に送還されたとして認定された初のケースである。

 ウガンダではLGBTに対する迫害が報告されており、2014年には同性間の性行為に対して終身刑を課す法律が制定され、同性愛が厳罰化された。その後、憲法裁判所により新法の施行は停止されたが、2019年現在も有効である法律においても同性間の性交行為は違法であり、宗教的・文化的な理由によってLGBTに対して嫌悪感を示すホモフォビアが根強く残っている。そのため、LGBTはしばしば迫害の対象になり、そのセクシャリティやジェンダー・アイデンティティを隠して生活する必要に迫られる。セクシャリティやジェンダー・アイデンティティが露呈することは迫害や差別を受けるリスクと密接に結びついている。しかし、ウガンダに送還された場合に、空港で行われる警察の事情聴取(尋問)で性的指向などを理由に他国で難民申請をしたことが明らかになると、実名がマスメディアで報じられるケースもあるという2。つまり、送還されること自体に自らのセクシャリティを望まない形で公開されるアウティング(暴露)の危険と、それに伴う迫害や差別の危険が内包されている。

6.エリトリアに送還された難民が拷問を受ける危険性

 独裁政権下にあり様々な人権侵害が報告されているエリトリアへの被送還者は、拘禁され、拷問される深刻なリスクに直面している3。EUの政府機関であるEuropean Asylum SupportOfficeの2019年のレポートによれば、ほとんどの帰国者(送還・自主帰還は問わず)はテセニー(Tesseney)近郊の地下刑務所に入れられ、スクリーニングと身元確認が行われ4。この刑務所を含むエリトリアの刑務所では拷問が行われているという報告が複数ある。

2つの刑務所にて尋問を担当していた人物の証言

氏名不明(年齢不明)、2019年5
「拷問は鞭、プラスチック性のチューブ、Electric stick(電気スティック)で打つ、炎天下に立たせる、手と足を八の字に縛る、手と足を背中側で縛る、木に縛り付ける、冷水の入ったコンテナに顔を入れさせる、手のひらやかかとを打つなどだった[…]」

テセニー刑務所で刑務官として勤務していた人物の証言 

氏名不明(年齢不明)、2019年6 
 (被収容者が諜報部の役人に連れていかれる場面をよく目にしたといい、その状況について)「彼らはいつも警棒と銃を持って2人組でやってくる[…]。彼らは一人に名前が書かれた紙を持ってきていて、その人を(連れてくるように)言う。私たち(刑務官)はなにも質問しない。彼らは車の後ろに人を結び付けて(車で)引っ張ったり、いろいろな金属のチェーンを使って彼らを縛り付けたり、足のかかとを打ち付けたりと拷問を始める。酸欠にするためにプラスチックのバックを頭からかぶせることもある。そのまま夜通し放置したりする。だいたいこのような(拷問)は夜間に行われる。収容者は夜を嫌っている。何が起こるかわからないからだ。収容者は尿のにおいがするし、女性はストレスでしょっちゅう生理がきている。」

 上記の刑務所で拷問を受けた被害者が送還された難民申請者であるかどうかは定かではないが、国連調査委員会の報告によれば、エリトリアでは出国に厳しい制限をかけており、許可なく国を離れた者は逃亡者としてみなされ、帰国と同時に逮捕・拘留される。拷問も含めた取り調べが行われ、その後も数か月から数年に渡って拘禁され、非人道的な扱いを受ける7。エリトリアを合法的に出国することは非常に困難であるため、Human Rights Watchによれば、難民が送還された場合はこのような拷問、非人道的な扱いが常態化している刑務所に送られる可能性が極めて高い8。UNHCRはこの罰はあまりにも厳しく、(許可なしに出国したという罪に対して)不釣り合いであり、それ自体が難民認定における迫害の要件を満たすとの見解を示している9


【送還に関する有用な文献・ウェブサイト】

  • Post-deportation risks: Criminalized departure and risks for returnees in countries of origin
    http://refugeelegalaidinformation.org/sites/default/files/uploads/1.%20Post-Deportation%20Risks-%20A%20Country%20Catalogue.compressed%20copy%202.pdf

    VUアムステルダム大学(当時)のMaybritt Jill Alpes博士による研究プロジェクトで、パリ政治学院大学の学生6名とともに行われた調査報告。正式な許可のない出国を試みた自国民に対して罰則を与える国家に着目し、出身国に帰国した際に(1)送還された人、(2)難民不認定者、(3)許可されていない旅行者が帰国後に(a)金品の没収、(b)拘留、(c)身体的暴力などの被害にあう危険性のある国をリスト化した。
  • Rights in Exile Programme Post Deportation Monitoring http://www.refugeelegalaidinformation.org/post-deportation-monitoring

    難民に対する法的支援・アドボカシー活動を行っているAMERA Internationalのホームページで送還に関する論文・報告がまとめて掲載されているほか、各国で送還後の支援を行うAMERA Internationalと連携する団体・個人が国別にリスト化されている。
  • Deportation Global Information Project 
    http://postdeportation.org/

    送還と送還後に着目し、学術研究や政府・国際NGOの報告などを集約している。また、被送還者のマッピングを行い、その国に送還されたいくつかの事例が地図上で示されている。

(以上)

  1. The Guardian “Home Office must help woman unfairly deported to Uganda to return to UK,” [https://www.theguardian.com/global-development/2019/jul/04/home-office-must-help-woman-unfairly-deported-to-uganda-to-return-to-uk-pn] (13 Apr. 2020).[]
  2. Charity Ahumuza Onyoin “A grim return: post-deportation risks in Uganda” 2017 https://www.fmreview.org/sites/fmr/files/FMRdownloads/en/resettlement.pdf pp.81-84 (13 Apr. 2020).[]
  3. Human Rights Watch “Sudan: Hundreds Deported to Likely Abuse,” [https://www.hrw.org/news/2016/05/30/sudan-hundreds-deported-likely-abuse] (13 Apr. 2020).
    [https://www.dabangasudan.org/en/all-news/article/sudan-deports-another-36-eritrean-migrants](13 Apr. 2020).[]
  4. EASO “Eritrea National service, exit, and return Country of Origin Information Report 2019,” pp.62-64. [https://coi.easo.europa.eu/administration/easo/PLib/2019_EASO_COI_Eritrea_National_service_exit_and_return.pdf] (13 Apr. 2020).[]
  5. UN Human Rights Council “Advance Version, Report of the detailed findings of the Commission of Inquiry on Human Rights in Eritrea,” 2015, para. 1015[https://www.ohchr.org/Documents/HRBodies/HRCouncil/CoIEritrea/A_HRC_29_CRP-1_Chapter_VI.pdf] (13 Apr. 2020).[]
  6. 前掲注3ページ-5。[]
  7. 前掲注3ページ-5。エリトリアへの被送還者に関する報告はパラグラフ426-437が詳しい。[]
  8. 前掲注31ページ-3。[]
  9. UNHCR “UNHCR deeply concerned by deportation of Eritreans from Sudan,” [https://www.unhcr.org/news/press/2011/7/4e2ec8a36/unhcr-deeply-concerned-deportation-eritreans-sudan.html] (13 Apr. 2020).[]