[事例集]送還された難民・難民申請者とその後

2.スーダンに送還された後に政府によって拷問を受けた事例

③ Ali Yahya(年齢不明)、2016年、拷問1

 ヨルダンから強制送還されたAliは到着直後にKhartoum国際空港で拘束され、6日間拘留された。一度解放されるが、翌日に再拘留され16日間拘留された。拘留中、繰り返し殴られるなど暴行を受けた。ダルフール出身で紛争と虐殺により兄弟を殺害されたAliはヨルダンでUNHCRによる難民認定を受けていた。ヨルダンから他国への第三国定住が進まない中で起こった抗議デモに参加し、その際に複数のマスメディアの取材に応じており、彼の実名が複数の記事に掲載されていた。拘留中、暴力を伴う尋問を受け、海外のマスメディアに話した内容と、ヨルダン滞在中に支援を受けていたキリスト教系団体との関係を繰り返し質問された。ムスリムであるAliがキリスト教徒とともにいたこと自体が許容できないことなのだという。Aliは拘留を解かれた後、エジプトに避難し、再びUNHCRから難民認定を受けた。

 スーダンに送還された人については、Aliと同様にヨルダンから送還後に拷問・虐待を受けた難民申請者の事例が報告されているほか、2016年11月22日にイスラエルから送還されたMohamed Ahmed Aliが帰国直後に拘束され、National Intelligence and Security Services (NISS)による取り調べ中に死亡した事例も報告されている。 Mohamedが死亡した経緯は明らかではないが、NISSによる取り調べ中に受けた暴行が原因で死亡したと推測されている2
 Mohamed は自主的に送還された難民申請者であるとされているが、イスラエルが難民不認定となった難民申請者に対して、イスラエル内の施設への収容か送還(第三国への送還を含む)の二択を迫るという事例が、多くの証言により明らかになっている。つまり、「自主的」に送還に応じるように強い圧力がかけられ、送還が実質的に強制されている。Aliの事例において、イスラエル政府が圧力をかけたかは定かではないが、イスラエルから送還後に再び他国に避難し難民認定を受けたケースも多数報告されており、イスラエルの難民認定手続きと送還に関しては批判がある。

3.コンゴ民主共和国(DRC)にイギリスから送還された人が拘禁・拷問された事例

④ 氏名不明(年齢不明)、2011年、拘禁・拷問3

「(イギリスから送還後)「彼らは私を車に乗せるとそのまま、Kin Maziere 刑務所(Prison)に連れて行きました。私はそこの監獄に入れられました。ひどい経験でした。排泄、食事、寝るのはすべて床でしなければならないひどい生活環境だったからです。(そもそも)食事は提供されず、私たちはたまに自分の尿を飲まなければいけませんでした。また暴力も振るわれました。」

⑤ DN(年齢不明)、2016年、拘禁・拷問4

 2016年12月2日にイギリスから送還されたDNは空港内で国家情報局により拘束され、尋問された。その際、DNは治療が必要なほどの拷問の被害を受けた。牢獄から抜け出した後、DNは病院に体から毒を抜くために病院に駆け込み、緊急で胃洗浄とバリウム浣腸を受けた。DNは(DRCの国家情報局から)隠れて生活することを余儀なくされている。

 ④の事例以外にもイギリスの民間難民支援団体(Justice first)の報告によれば、2011年に同団体がモニターしたほぼ全ての送還された難民申請者5が、拘禁、拷問、強制的な身代金の支払い、レイプやセクシャルハラスメントの被害にあった。⑤の事例のように、DRCでの被送還者に対する拘禁や拷問は2011年以降も継続的に報告されている。そもそも他国において難民申請を行うこと自体が国家への裏切り行為とみなされる危険があり6、DRCでは国外からの被送還者は反政府活動の嫌疑がかけられ取り調べの対象となる7。送還後の拘禁、拷問、失踪などの事例が多数報告されている。

4.スリランカにイギリスから送還されたタミル人が拘禁・拷問・レイプされた事例8

写真はイメージです

⑥ RS (年齢不明)、2011年、拘禁・拷問

 イギリスから送還されたRSは2011年12月29日に軍の兵士によって拘束された。尋問の間、彼は棒で殴られ、煙草の火を押し付けられ、また頭にケロシンをかけられた(his head was doused with Kerosene)。また、逆さにつるされて水が入った桶の中に入れられたり、ホットチリが頭や胸の下に置かれたりしたという。拷問の結果、彼は2009年に(内戦に)敗れたタミル独立派のLiberation Tigers of Tamil Eelam (以下、LTTE)のメンバーであったことを自白した。彼は実質的な賄賂を支払うことで収容所から脱出し、スリランカからイギリスに再び避難し、難民申請を行った。

⑦ BK(年齢不明)、2010年、拘禁・レイプ

 タミル女性であるBKは、2010年に送還された直後、スリランカのコロンボ空港にてCID(Criminal Investigation Department)に拘束された。彼女によれば、拘留されている間、複数の男性に幾度となくレイプされたという。レイプ被害を受けたことにより、多量の出血もあった。親戚が彼女を拘留していた警察官たちに賄賂を支払い解放され、その後再びスリランカからイギリスに戻って難民申請を行った。

 ⑥⑦で取り上げた2名のように、2009年に内戦が終了した後、イギリスはスリランカ人の送還を進めた。しかし、送還されたタミル人は多数派のシンハラ人と長期的に対立関係にあったLTTEとの関係を疑われ、拘束され、拷問を受ける事例が多数報告されている。上記の2名の難民申請の結果は明らかではないが、イギリスから帰国後に拷問を受けた被害者への聞き取りを行った民間団体(Freedom From Torture)のレポートによれば、拷問から逃れ、再びイギリスに避難して難民申請をした12名のうち、少なくとも5名には難民認定がなされた9。同団体の報告によれば、過去にスリランカでLTTEと関わりがあったかどうかではなく、イギリスから帰国したという事実だけで、イギリスでLTTEの活動に参加していた可能性を疑われ、尋問・拘留・拷問の対象になるという。
 拷問禁止委員会は拷問等禁止条約第20条に基づく調査を行い、調査が行われた2016年現在においても、スリランカで継続して組織的拷問が行われていると指摘している10。調査対象は被送還者に対する拷問に限定されていないが、取り調べの際に拷問が一般的に行われていると懸念を表明している。前述のように、拷問等禁止条約は拷問が行われるおそれのある国への送還を禁止しており、スリランカにおいて帰国したタミル人がLTTEとの関係を疑われ、取り調べの標的になっているという報告に基づけば、仮に難民条約の迫害要件を満たさない場合であっても、「拷問の被害にあうおそれがないという」合理的な判断がない限りは、スリランカへの送還は認められないことになる。

5.ウガンダに送還されたレズビアンの難民について、イギリス高裁が送還の判断が過誤であったと認定し、イギリスへの再入国を支援するように命令した事例

  1. Waging Peace “Recent cases of post-deportation risk,” [http://www.wagingpeace.info/wp-content/uploads/pdfs/Post-deportation_update_January_2017.pdf] (13 Apr. 2020).[]
  2. 前掲注2ページ-1。[]
  3. Justice First (Ramos Catherine) “Unsafe Return: Refoulement of Congolese Asylum Seekers,” 2011, [http://justicefirst.org.uk/wp-content/uploads/UNSAFE-RETURN-DECEMBER-5TH-2011.pdf] (13 Apr. 2020).[]
  4. Ramos Catherine氏による家族への聞き取りやDRCで活動するBill Clinton Foundation for Peaceの情報に基づく。Ramos Catherine “Unsafe Return III: Removals to the DRC 2015-2019,” [https://cityofsanctuary.org/wp-content/uploads/2019/05/Unsafe-Return-III-Removals-to-the-Democratic-Republic-of-the-Congo-2015-to-2019-Catherine-Ramos.pdf](17 Apr. 2010).[]
  5. イギリスから強制送還された14名、自主帰還した3名(計17名)をモニタリングした。内2名は帰国直後から行方不明となり、残りの15名のうち13名が尋問、逮捕・拘禁、身体的、精神的または性的虐待、拷問などの被害を受けた。帰還のリスクは自主帰還者にも及び、自主帰還3名のうち1名は行方不明、1名は拘禁を経験し、もう1名も帰国から1か月後に身の危険を感じ再びDRCから避難している(前掲注2ページ-3)。[]
  6. 前掲注2ページ-3、p.33。[]
  7. 移民・難民申請者の送還について多数の研究業績があるMaybritt Jill Alpes博士が2019年発表した報告によれば、同氏が行った聞き取り調査において、DRCの複数の警官が「被送還者は政治亡命者とみなす」と説明し、また、政府官僚は「国外で根拠のない難民申請(unfounded asylum declaration)を行ったものは逮捕、拘禁される」と述べた。Maybritt Jill Alpes “After Deportation, Some Congleses Retunees face Detention  and Extortion” [https://www.migrationpolicy.org/article/after-deportation-some-congolese-returnees-face-detention-and-extortion] (17 Apr. 2020).[]
  8. Human Rights Watch, ”UK: Halt Deportations of Tamils to Sri Lanka,” [http://www.hrw.org/news/2012/02/24/uk-halt-deportations-tamils-sri-lanka] (13 Apr. 2020).[]
  9. レポートが発行された2012年9月現在で5名が難民認定を受け、3名が審査待ち、残りの4名については審査結果の情報がない状態であった。Freedom From Torture “Sri Lankan Tamils tortured on return from the UK”, 2012, [https://www.refworld.org/pdfid/505321402.pdf] (13 Apr. 2020).[]
  10. UN Committee Against Torture “Concluding observations on the fifth periodic report of Sri Lanka,” [https://www.refworld.org/publisher,CAT,,LKA,596f5cc24,0.html] (13 Apr. 2020).[]