第6回若手難民研究者奨励賞 講評

第6回若手難民研究者奨励賞 選考経過報告(講評)

 

2018年7月4日

文責:選考委員会

 

(1)応募状況      

今年は初めて二次募集を行い、一次、二次を合わせて10 件の応募がありました。例年多様な分野からの申請がありますが、今回はこれまで以上に応募者の専門や研究対象・地域などが多岐に富んでいました。具体的にみると、専攻に関しては、歴史学、文学、文化人類学、開発学、政治学、社会学、地域研究、公衆衛生学に加え経営学という方もいらっしゃいました。なお、今回の特徴として難民研究の分野では大きな学術的寄与を果たし、毎年申請のあった法学専攻の方からの応募がないということも特徴でありました。

研究対象地域も多岐にわたっており、日本、東南アジア、中東、EU諸国(EU諸国については、とりわけドイツとイタリア)における事象を対象とした申請が多くありました。

また、過去受賞は逃しているもの再申請してくださっている方も数名おりました。内お1 人は、今回選抜され、研究者の養成という側面で喜ばしいことだと思っております。

申請者の所属は、これまで同様、大学院生(博士課程)や若手の大学教員・研究員の方が多数を占めましたが、学部生および民間のコンサルタント会社所属の方からもご応募をいただきました。また所属先や研究拠点の地域的分布について、今回は首都圏を拠点としている申請者が多い(7 件)という結果となりました。その他は関西(1 件)、また研究のため海外に滞在している方(2 件)の申し込みとなりました。

 

 

(2)選考過程

選考に当たっては、研究・専門分野が異なる研究者(5名)と実務者(1名)から構成される6名の選考委員を選任しました。審査は、①選考委員による個別審査と、②選考委員会の開催と協議の2段階で進められました。また前回より導入された再申請枠(過去受賞者の再申請)についても、別途審査を行いました。

まず、第一段階として、各選考委員が個別に書類審査を行いました。応募書類および参考資料の内容をもとに、各選考委員が各申請者を次の5つの選考基準項目をもとに点数とコメントをつけました。選考の基準は、【1.研究の目的】【2.研究の独創性】【3.研究の計画性】【4.学問・社会への貢献度】【5.研究者の若手度】とし、それぞれの項目を総合的に勘案したうえで採点と順位づけをしました。

第二段階として、選考委員会を開催し、各選考委員の得点および順位付けを基に、選考委員から高い評価を受けた応募者について、選考委員全員で個々の申請内容を協議し、受賞者の選定を行いました。

 

 

(3)全体講評

全体的な傾向としては、①難民の大規模な流入を経験している国・地域における難民受入れ、統合に関して、オリジナリティのあるアプローチで研究しようとする申請、また②難民の主体性、あるいは難民をとりまく社会のソーシャル・キャピタルに注目する申請が多くありました。また、研究アプローチや専門に鑑みて、学際的な視野で研究に取り組んでいる方々、難民を専門にしていたわけではないが、新たに挑戦しようとする申請者もおり、日本において難民研究のすそ野が広がってきていること、既存の難民研究の超克の兆しを垣間見ることができました。

受賞者の選考にあたっては、以下の2点を特に重要な審査項目として選考を行いました。

  1. 第一に、研究の意義、目的、研究手法、研究計画が明確であり、それらの間に整合性や研究実績があるか、それによって来年4月末までという短期間に学術的な成果論文を完成させられるかという判断です。本奨励賞の選考の特色として、研究者のみならず実務者が選考委員に入っているため、研究と実務の双方の観点から、研究テーマや研究方法、調査内容の妥当性や実証可能性が厳しく審査されました。
  2. 第二に、難民研究に対する学術的貢献度と、実際の難民状況の解明や改善に資するかという社会的貢献度についても議論されました。難民研究の特性に鑑み、for refugees(難民のための難民の視点に立った研究か、難民の権利保護に資する研究か)という観点からも、審査が入りました。

 

その結果、以下の4名を受賞者として選出しました。

 

 

(4)受賞者4名の講評(50音順での発表)

 

 1)岡野 英之 (おかの ひでゆき):地域研究・政治学

     立命館大学人文科学研究所・客員研究員

        『 国境を越える政治活動と武装勢力―北タイに住むシャン人難民・移民はいかにミャンマー内戦に影響を与え            ているのか―』

  • 内定理由:ミャンマー(ビルマ)からタイに移動した政治エリートたちを主体的なアクターとして捉え、彼らを支援対象である難民とは異なる視点から論じようとする研究であり、紛争研究と難民研究の架け橋になることが期待される。また研究計画が今回の申請の中でも特に明確かつ実現可能性があり、成果が期待できると評価した。  

 

 

 2). 北岡 志織(きたおか しおり):ドイツ演劇・文学

         東京大学大学院 総合文化研究科博士課程

        『 演劇界と難民問題-ドイツ・ハンブルグ演劇界のアンガージュマンの考察から-』

  • 内定理由:難民流入の規模の大きいドイツにおいて演劇を切り口に共生を考察する視点はオリジナリティがあり、意義深い。かつ問題意識や研究計画が明確であり、高い成果が期待できる。当研究はドイツのハンブルグという一地域にフォーカスしつつも汎用性があると考えられ、日本における共生や難民と社会変容を取り巻く状況にも示唆を与えうると評価した。

 

 

 3). 佐藤 滋之(さとう しげゆき): 国際政治学、援助論

         早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程 (2018 年5 月1 日より休職)

『パキスタン・イランにおけるアフガニスタン人難民の社会統合:その実践にみる成功と課題』

  • 内定理由:国際的な難民支援政策が大きく変容している今、長い受入れの歴史があるイラン、パキスタン両国のアフガン難民を切り口にしてホスト社会への社会統合を分析することは大きな社会的意義がある。研究計画、提示されている研究手法についても説得力がある。

 

 

 4). 山田 光樹(やまだ こうき): 人類学/社会学

         Ca’ Foscari University of Venice (ヴェネツィア大学修士課程)/一橋大学大学院 社会学研究科 総合社会科学専攻 社会動態研究 修士課程(休学中)

『 民間の難民施設のエスノグラフィー:イタリアの難民受け入れモデルに関する人類学的考察』

  • 内定理由:イタリアにおける難民、とりわけ近年主流になりつつある民間の難民施設における難民申請者と職員との関係に着目し、境界状態にある難民や彼らがおかれる施設の実情を明らかにしうる社会的にも学問的にも意義のある研究である。イタリアにおける難民を事例とした研究が少ない中で、関連する先行研究をよく調べており、昨年の申請からの深化も評価できる。

 

以上4組の受賞者の研究は、今後の日本における難民研究の発展に十分に寄与しうるもの、また実社会の難民問題への貢献度も高いものになると評価され、またその研究成果を短期間で論文にまとめられる実力が各受賞者にあると判断されたため、受賞に至りました。

また、昨年度より導入した再申請枠には申請があったものの該当する方がいないと判断しました。

以上

※受賞者の成果論文・報告は、『難民研究ジャーナル』9号に掲載されています。
 こちら から

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