アジア太平洋難民の権利ネットワーク(APRRN)日本の難民保護制度に関する声明(和訳)

2014年4月18日、アジア太平洋地域における難民の権利保護のための市民社会ネットワークである「アジア太平洋難民の権利ネットワーク」(Asia Pacific Refugee Rights Network: APRRN)が、日本の難民認定制度に関する声明を発表しました。難民研究フォーラムが同声明の和訳を作成しましたので共有いたします。

日本における低い難民認定率、難民の収容、シリア出身庇護希望者の難民不認定、難民認定の代替措置としての人道配慮による在留特別許可等の諸課題を提示し、日本政府に対して国内難民保護体系や収容制度の早急な再検討を呼びかけています。

* 和訳データのダウンロードはこちら→APRRN_Statement_18April14(JPN_Translation).pdf

* 原文は以下からご覧いただけます(リンク)。
APRRN, “APRRN Calls for Immediate Review of Japan’s Domestic Refugee Protection Systems”, 18 April 2014.

 

アジア太平洋難民の権利ネットワーク(APRRN)は日本の国内難民保護制度の早急な再検討を求める

 

APRRN声明、2014年4月18日(金)

 

 

 2014年3月20日に日本の法務省入国管理局が発表した2013年(平成25年)における
難民認定者数等に関する統計によれば、3,770人の庇護希望者(訳注:難民申請の年間処理数。一次審査と異議申立ての処理数の合計)に対し、難民として
認められたのはわずか6人にすぎなかった(認定率約0.1パーセント)。シリア出身者の難民申請が全て却下されたことは驚きである。また、この統計発表の
10日後に難民申請者二名が入国管理局収容施設で死亡したが、これは他の収容施設でロヒンギャ難民(認定申請者)が死亡した事件から数か月しか経たないう
ちに起こっている。日本国内の難民の保護制度の合法性と有効性に異議を唱えるため、
アジア太平洋難民の権利ネットワーク(以下、APRRN)は即時の再検討を求める。

 

日本は、地域(訳注:アジア太平洋地域)で最初に難民条約に加入した国の一つであり、また国際的な難民保護の最大の貢献国の一つであって、さらには第三国定住難民の受入れを始めた同地域で最初の国である。APRRNは、日本がアジア太平洋地域において難民保護のリーダーになれると信じ、日本政府に対して、国内における保護業務を強化し、難民が支援の枠組みから漏れてしまうことなく、確実に保護する責任があることを強調する。

 

     日本政府は2013年の難民申請の99.9パーセントを却下

 2013年の難民申請数は3,260件であり、3年連続で最高を記録している[]。法務省によれば、2013年に保護が認められた件数は6件で、1997年以来最低となっており[]
認定率は0.1パーセント(申請処理数3,777人のうち6人)となっている。政府の統計によれば、6人のうち3人が一次審査で認められ、残りの3人は異
議の申立てにおいて認められたとされている。しかし、一次審査で認められた3人のうち1人は行政訴訟を経て(訳注:難民不認定処分の取り消しを求める行政
訴訟に勝訴し、難民不認定処分が取り消されたのちに難民認定の)再申請をした人であり、つまりこの申請者は一次審査に戻される前に一度(審査において難民
認定を)却下されたのである。従って、実際には(最終的に難民認定を受けた)6人中4人が、一次審査でまず難民認定を却下されたということになる。

 

難民認定の中立性、公正さ、透明性を増すため、2005年に、難民認定の異議申立て段階に
「難民審査参与員」が参加する制度が導入された。しかし、複数の報道によれば、法務省は、難民審査参与員による(難民であるという)最初の承認があったに
も関わらず、さらに4件(7人)の申請を却下したという。これは、法務大臣が、異議申立て段階で(難民認定が)なされるべきであった7件のうち4件につい
て、難民認定を破棄したことを意味する
[]

 

2012年も同様の状況であり、3,194件の申請のうち18人が認定され認定率は0.56パーセントに留まっていた。2011年は2,999件のうち21人が難民として認められ、認定率は0.7パーセントであった。2011年に認められたうち
18人はミャンマーからの難民で、残りの3人は別の国籍であった。2012年は15人がミャンマー難民で、残りの3人が他の国籍であった。さらに2013
年は3人がミャンマー難民で、残り3人は他の国籍であった。これらの例年の事情を鑑みれば、ミャンマー出身者の難民認定が減り、他の国籍出身者への認定数
が何ら変わらないために認定率が低くなっているということが明らかである。

 

      シリア出身者の難民申請全てが却下

2014年2月26日の衆議院予算委員会において、公明党の遠山清彦議員は法務大臣に対し、日本のシリア難民の受入れ数と在留資格に関する質疑を行った[]。その回答によれば、2011年から(シリア出身者)52人の難民申請が受理されており、現時点までに決定が出された34人全員が難民認定を却下され、その代わりとして、34人中33人には「人道上の配慮」(以下、「人道配慮」)による在留特別許可が認められたという。

 

     日本における難民認定に代わる人道配慮

法務省によると、2013年に入国管理局は人道配慮を理由とした在留特別許可を151人に認めている。日本の法制度においては、この許可は日本への滞在を許可する「特別な事情」がある場合に認められる。「特別な事情」の正確な基準は明らかにされていないが、法務省は一般的に、素行、家族状況、出身国の状況を考慮に入れていると思われる。この許可は、一般的に完全に(政府の)自由裁量の措置だと捉えられている。難民側からは人道配慮による在留特別許可を申請することはできず、もしそれが認められなかった場合にも異
議を申立てることはできず、それにもかかわらず、難民申請が却下された後に場合によっては与えられることがあるというものである。人道配慮による在留特別許可を得た人は、難民条約で保障された権利の全てを受けられるわけではなく、難民認定を受けた人が受けられるのと同様なサービスを受けられるわけでは
ない。例えば、ノンルフールマン原則は適用されず、永住権の取得にあたっての優遇措置は受けられず、難民が受けられる政府からの定住支援も受けられず、在留資格が定住者又は永住者に変わるまでは家族の再統合は実務上できない。国際法の下では、難民であれば、その地位を否定されたり、(人道配慮のような)補
完的な地位を(難民地位の)代わりに与えられることはない。しかし日本の難民認定制度の文脈においては、これが難民に関して完全なる自由裁量を保持しよう
という日本(政府)の方針であるように思われる。そして人道配慮による在留特別許可を難民認定の数に加えても、認定率は4パーセントにすぎないのである。

 

     果てしない申請のプロセス

申請数が増加し、事実上その全ての申請が却下される中、何千人もの難民申請者がわずかな難民
認定の望みを持ちながら、何年もの時間を行政手続と司法手続に費やしている。入国管理局は、6か月以内に一次審査の判断を下そうとしている。しかし、一次
審査での(難民認定)却下後の異議申立て手続には通常、最低で1年はかかる。もし裁判になれば、三審の各段階で通常1年以上かかるため、最終的な決定に至るまでに最低で3-5年、時には10年以上かかる。何年もの時間が過ぎ、多くの申請者はその間不必要に貧しい暮らしをせざるを得ない。そして、不透明な官僚的プロセスを歩むなかで、既に脆弱な少数グループはさらに精神的及び肉体的に疲弊していく結果となる。

 

     日本の入国者収容施設での難民申請者の死

APRRNはまた、日本の入国者収容所における死亡事例について深い懸念
を示し、日本における現行の収容方針を再検討することを求める。昨年10月に空港で難民申請後に収容されたカメルーン人の男性が、6か月に及ぶ収容中の3
月30日に死亡した。その数日前にはイラン人男性が喉にものを詰まらせて亡くなった
[]。これらの二つの事例は、ロヒンギャ難民(地位申請者)の男性が死亡してから2か月しか経たないうちに起きた[]
これらの最近の死亡事例は、不十分な医療サービスと、施設のスタッフの健康問題に対する緊急対応の能力の欠如と関連しているように思われる。最近の2つの
死亡事例は、過去の失敗への説明責任の欠如を明白にし、明らかな医療サービスの必要性への鈍感さについて疑問を投げかける。報告によれば、収容者は、健康
の問題を訴えた際の(収容所側の)医療サービスの欠如と無関心について不満を示している。これは、収容が与える身体的・精神的悪影響の最たるものである。

 

日本の弁護士によれば、収容施設外の住所や保証人、通常30万円から300万円の保証金があ
れば、収容者は「仮放免」を申請できる。実際には、収容者は同じ仮放免の申請書を何度も提出し、何度も理由なく却下され、そして結局、当局(訳注:入国者
収容所長又は主任審査官)に理由の説明なく認められることになる。

 

国際人権規約は任意の収容延長(・長期にわたる収容)を禁止し、収容は最終手段として使われることを要求している[]。どんな類の収容も個別に再検討され、監視されなければならない[]。収容延長は脆弱性の増加につながり、適法な政府の目的に合致しないことが証明されている[]APRRNは牛久の東日本入国管理センターにおける収容者の死亡についての迅速な調査と、緊急時対応の手順に重きを置いた全ての入国管理局収容施設の状況調査、定期的な医療サービスと治療の質向上のための対策を求める。]

 

APRRNは日本国内の難民保護制度の迅速な再検討を求める。

1.APRRNは(難民)認定率の低さについて懸念を示し、全ての人が送還、追放や処罰の恐怖なく、そして法の適正手続、情報へのアクセス、効果的で適格な通訳と翻訳のサービス、法的代理人を持つ権利、国際法に沿った公平で熟練した意思決定を含む公正な地位の決定手順を、適正な時期に経ることができるように、日本の難民認定プロセスを再検討することを求める。APRRNは国内の市民社会が求めている独立した難民保護法制定の要求を考慮し、立法者に対して日本の市民社会から挙げられた「5ポイント」[10]を進めることを奨励する。

2.APRRNは日本政府に対して、シリア危機への対応について、難民保護の原則を尊重し、かれらの領土へのアクセス、難民認定手続きへのアクセスを確保し、そして難民申請の検討と認定への取り組みを調和させることで、国際社会との連携を示すように強く求める。

 

3.APRRNは日本政府に対し、難民条約における難民地位の基準を解釈するにあたり、全ての基準を満たす人が適正に(難民として)認定され、補完的保護(訳注:人道配慮による在留特別許可など)によってではなく、難民としての法的地位の下で保護されるように解釈することを強く求める。

                                                                                               

4.APRRNは牛久の東日本入国管理センターにおける二名の収容者の死についての即時の調査及びその結果の公開と説明を求め、加えて、緊急時の医療サービスを含む医療サービスへのアクセスの手続きに重きをおいた、全ての施設における入国者の収容の実態の調査を求める。

 

5.APRRNは、法務省、日本弁護士連合会、なんみんフォーラム[11]間の三者合意の存在により、難民保護制度と「収容代替措置」の改善について話し合うことができ、収容は最終手段としてのみ使われるべきという要求と、全ての代替案が調査されるべきという要求について、これらの団体に実際的な意味を与えるよう求める。


  

 APRRNの声明はAPRRN会員の協議により作成されているが、必ずしも全てのAPRRN会員の意見を反映しているものではない。

 

 

 

 [] 法務省、平成25年における難民認定者数等について (2013年は3,260人が申請

;
平成24年における難民認定者数等について(2012年は2,545人が申請)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00094.html
;
平成23年における難民認定者数等について(2011年は1,867人が申請)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00085.html

 

[] 同上:法務省平成25年における難民認定者数等について。

 

[] 全国難民弁護団連絡会議「2013年の日本の難民認定状況に関する声明」2014年4月http://www.jlnr.jp/statements/2014/jlnr_statement_201404_j.pdf

 

[] 質疑応答は録音され、衆議院TVで視聴可能:

。非公式の適切な抜粋の写し:
衆議院予算委員会にてシリア難民の受け入れと難民の家族統合に関する質問および答弁
2014年2月26日の衆議院予算委員会にて、公明党の遠山清彦議員が日本のシリア難民の受け入れ状況と、難民認定を受けた人の家族統合に関する質問を行いました。 映像は衆議院インターネット審議中継よりご覧いただけます。 Q.遠…

 

[] The Japan
Times, “Two Men Die at Immigration Center”, 31 March 2014

.

 

[] The Japan
Times, System ‘Failing Asylum Seekers’,
2 November 2013
[http://www.japantimes.co.jp/news/
2013/11/02/national/system-failing-asylum-seekers/#.Uz7P43f8aP0].

 

[] ICCPR,
Article 9; CRC 37 the UN General Assembly, Human Rights Commission, and UNHCR
Guidelines also give detailed explanation of the legal standards and
prohibitions.

 

[] ICCPR,
Article 7, 10, 18; ICESCR, Article 11, 12; CAT, Article 11, 16; CRC 22, 28, 31.

 

[] International Detention Coalition, “There Are Alternatives”,

.

 

[10] なんみんフォーラム「難民保護法検討のための論点整理」2013年6月

 

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